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第九章・12

 サロランニ王国は、春バラの季節を迎えていた。    バラ園担当のヴァフィラはもちろんの事、神殿付きの人間は皆、その手入れに追われる毎日を過ごしていた。  それでも手が足りず、庭師も大勢雇っている。  朝昼の炊き出しをする料理人や作業着の洗濯女、記録係や園芸道具の研ぎ師など様々な人間が、それぞれの役割を持って働いていた。  花開いたバラをそのままにしておくと、実を結ぶためにエネルギーを消費し始める。  木が痩せてしまわないよう、品種改良や種(しゅ)の保存のために種子を残す株以外の花は、終わればすぐに摘んでしまわねばならない。  ヴァフィラはその作業に、大忙しだった。  朝もバラ。昼もバラ。夜もバラ。  毎日、一日中、考えるのはバラの事ばかり。  手を伸ばすものも、バラばかり。  時折やってくるルドーニの顔を見ると、ホッとしていた。  だが、一息つく暇もない。  お茶でも飲まないか、との彼の誘いも断り、今夜夕食を一緒に、との誘いも断り。

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