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第九章・29
もがくヴァフィラを必死で抱きとめ、ルドーニはただ優しく耳元で囁いた。
「いいから。いいから、ヴァフィラ。今、お前のそばにいるのは、俺だけだから」
そう。何日も、何週間も、朝から晩まで『魔闘士・ヴァフィラ』として、大勢の前でふるまってきたヴァフィラ。
常に背筋を伸ばし、的確な指示を出し、末端にいたるまでの人間に気を配ってきたのだ。
「今は、誰もいやしない。お前を縛るやつは、いないんだ。俺は? 俺になら、いいだろ? 恥ずかしくなんかない」
「ルドーニ」
ルドーニの頬を両掌で包み、そっと持ち上げ目を合わせた。
涙の滲んだような瞳が、愛らしい。
そしてその中には、確かに俺が映っている。
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