256 / 459
第十一章・6
返事がない。
だが、ルドーニの言葉は耳に、心に届いているらしく、口へ運んでいたカップの動きが一瞬ぴたりと止まった。
返事をせぬまま、カップで唇をふさいでしまうヴァフィラ。
答えたくない、というわけか。
以前の自分なら、そこで話は終わりにする。
答えたくないのなら、何かわけがあるに違いない、と気を遣って次の話題を考える。
だが、今はもうずいぶんと二人の距離は縮んでいるはずだ。
何かヴァフィラの心にわだかまりがあるのなら、二人で分かち合いたかったし、解きほぐしてあげたかった。
「もしかして、訳あり?」
あえて、話題を続けてみる。
沈黙。
「ニコルスは、お茶のときはいつもバラの花を……」
「私は、バラの花など嫌いだ」
吐き捨てるような荒々しい言葉遣いに、ルドーニは驚いた。
それだけではない。
まさか、バラの花が嫌いだ、などと。
「そんな馬鹿な。嘘だろ。だってバラ園はあんなに」
そう。
神殿のバラ園はいつも丁寧に管理され、いつも見事な花々を咲かせているのだから。
愛情も無しに、あそこまで手をかけられるはずもない。
ともだちにシェアしよう!