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第十一章・6

 返事がない。  だが、ルドーニの言葉は耳に、心に届いているらしく、口へ運んでいたカップの動きが一瞬ぴたりと止まった。  返事をせぬまま、カップで唇をふさいでしまうヴァフィラ。  答えたくない、というわけか。  以前の自分なら、そこで話は終わりにする。  答えたくないのなら、何かわけがあるに違いない、と気を遣って次の話題を考える。  だが、今はもうずいぶんと二人の距離は縮んでいるはずだ。  何かヴァフィラの心にわだかまりがあるのなら、二人で分かち合いたかったし、解きほぐしてあげたかった。 「もしかして、訳あり?」  あえて、話題を続けてみる。  沈黙。 「ニコルスは、お茶のときはいつもバラの花を……」 「私は、バラの花など嫌いだ」  吐き捨てるような荒々しい言葉遣いに、ルドーニは驚いた。  それだけではない。  まさか、バラの花が嫌いだ、などと。 「そんな馬鹿な。嘘だろ。だってバラ園はあんなに」  そう。  神殿のバラ園はいつも丁寧に管理され、いつも見事な花々を咲かせているのだから。  愛情も無しに、あそこまで手をかけられるはずもない。

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