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第十一章・13
「赤……情熱や愛情、白……純潔や美徳、黄色……献身や友愛、……あ!」
余白に、青いインクで書き足された文字。
ニコルスの筆跡だ。
「橙……信頼や絆」
「彼に言わせると、家族へ愛情を示す時に贈る色、だそうだ。昔よく、ニコルスにオレンジ色のバラをもらったなぁ」
イジェスの眼が、ふと遠くを見る。
友人や恋人へ捧げる愛もある。
しかし、家族ほど無条件に互いを信頼し、注がれる愛情はない。
「そう言った、損得をも抜きにした純粋な愛情を、ニコルスはヴァフィラに、そして私たちに注いでくれていたのだと思う」
ルドーニの脳裏に、温かな日差しが甦る。
オレンジ色のバラの花に見守られ、笑いあうニコルスとヴァフィラ。
ルドーニの脳裏に、温かな灯が甦る。
オレンジ色のバラの花に見守られ、笑いあうお師匠と自分。
どちらも、血は繋がっていなくとも、まるで家族のように硬い絆で結ばれていた。
そして、お師匠とニコルスもまた、硬い信頼で結ばれていたのか。
「お師匠、この本借りてもいいかな?」
「お前にやろう。時が来たら渡してほしいと頼まれていた品だ」
本を手に、部屋を出た。ニコルスの優しい声が聞こえてくるようだ。
(ヴァフィラを、頼む)
そう聞こえてくるようだった。
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