266 / 459

第十一章・16

 これは賭けだ、と感じていた。  ヴァフィラの、心の一番柔らかい部分。  そこへ侵入しようというのだ。  下手をすれば怒りを買う。  いや、それどころか別れの引き金にさえなりかねない。  ヴァフィラを待つ間、心臓が速く高く鳴っていた。  こんなに緊張するのは久しぶりだ。  そっと、胸ポケットに入れた本に触れる。  ニコルスの遺品である、花言葉の綴られた本。    どうか、ご加護を。  何も知らないヴァフィラが帰ってきた。  表戸のドアノブが、静かに動いた。

ともだちにシェアしよう!