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第十一章・17

 ルドーニ。  いない。  声はすれども姿は見えず。 「ヴァフィラ、こっち。テラスへ来てくれ」  テラスでお茶。  ヴァフィラの眉が、わずかに曇った。  テラスでお茶を飲むことは、ずっと控えている。  あの人を思い出すから。  幼い私にお茶をふるまってくれた、あの人のことを思い出してしまうから。  屋内へ移動してもらおう、と思いつつテラスへ向かった。  そして扉を開き、眼に飛び込んできた光景にヴァフィラは息を呑んだ。 「おかえり、ヴァフィラ。お茶にしよう」  先生の茶器。先生のテーブルクロス。先生のお菓子。  そして、先生のオレンジ色のバラ。  先生。  ニコルス先生。  ……ではない。  しかし、あの日々と同じように、陽の光の下で、オレンジ色のバラとともに微笑む優しいまなざし。

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