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第十一章・19

「これ、ニコルスの遺品。お師匠が、持ってた」  花言葉の綴られた本。  しおりが挟んであるところをみると、ここを開けということか。  ページを破らないよう、大切に、そっと開いた。  そこにあったのは、バラの花々の花言葉。  赤……、白……、黄……、そして、橙。 「橙……信頼や絆」  かすれるヴァフィラの声に、ルドーニが補足を加えた。 「オレンジ色のバラは、家族へ愛情を示す時に贈る色、だそうだ。お茶の時は、いつもオレンジ色のバラが飾られてたろ? 損得抜きの、家族に対する純粋な愛情を、ニコルスはヴァフィラに持っていたんだよ」    ヴァフィラは、花瓶に活けられたオレンジ色のバラを見た。  父の顔も、母の顔も知らない私。  そんな私に、本当の父親のように、そしてある時は本当の母親のように、いや父以上に母以上に愛情を持って接してくれていたニコルス先生。  バラの輪郭が、ぼんやりと滲んでゆく。  ぽろり、と大粒の涙がヴァフィラの瞳からこぼれた。  ルドーニの大きな手が伸びてきて、その涙をそっとぬぐっていった。 「俺を、家族の一員に加えてくれ、ヴァフィラ。ニコルスの代わりになんかなれねえ事は解ってる。でも、俺は俺なりに、お前を幸せにしたい。苦しいこと一人で抱え込まないで、俺にも背負わせてくれ。頼む」

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