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第十二章・26

 翌日の朝食の席には、蜂蜜があった。  焼きたてのパンに、新鮮な牛乳。  季節の果物に、薫り高い紅茶。 「あ~、卵かハムもあった方がよかったかな」 「いや、これで充分だ」  にこやかに蜂蜜をパンに塗るヴァフィラは、心底嬉しそうだ。  蜂蜜のガラス瓶をヴァフィラから受け取り、ルドーニはにやりと笑った。  喉奥で、くっくっと声さえ立てている。 「何だ、その顔は。笑い方がいやらしいぞ」 「いや~。俺、しばらく蜂蜜見ただけで欲情しちゃいそう♪」  馬鹿を言うな、と耳まで赤くなって、ヴァフィラはパンを口に放り込んだ。  ミツバチの羽音が、かすかに聴こえたようだった。

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