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第十三章・18
つまり、なぜ『夜のお菓子』なのかと言えば……。
「出張や旅行のお土産として家庭に買って帰ったその夜に、一家だんらんのひとときをこの『うなぎパイ』で楽しんで欲しい、との願いが込められているのさ」
「なるほど~」
ルドーニはさすがに物知りだな、とヴァフィラは素直に感心している。
だが、もう一つの難関があったのだ。
「でも、だったらニコルス先生はどうして『大人のお菓子だから』と言って、私には食べさせてくれなかったんだろう」
「そっ、それはつまり」
ニコルスは多くの人間が思うように、この『夜のお菓子』という部分を、“精力増強”と勘違いしていたに違いない。
だから、まだ子どもだったヴァフィラに食べさせなかったんだ。
(ニコルスの名誉を傷つけず、且つヴァフィちゃんを納得させる言い訳は……)
「この菓子はさ、うなぎパウダーをパイ生地に練りこんで焼いてあるんだ」
「うなぎパウダー?」
「ウナギの骨で取った出し汁を、粉末にしたものだ。これを大量に摂取すると、まだ体が未発達な子どもは鼻血を出したりする。肝油と同じだ」
「なるほど、そうか」
だから、ニコルスはヴァフィちゃんに食べさせなかったんだよ、というルドーニの回答は完璧だった。
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