348 / 459

第十四章・10

 あの野郎、などとナッカを罵りながらも、腕を引く力は緩めないルドーニだ。  聞き分けの無い男に、ヴァフィラは実力行使に出た。 「痛い! ヴァフィちゃん、いきなり殴るなんてひどい! しかもグーで!」 「今から出かけるところだったんだ! 邪魔をするな!」  床にしゃがみ込んだルドーニを置いて、ヴァフィラは外へ出ると勢いよくドアを閉めた。  今から出かけるところだった。  それは嘘じゃない。  しかも、ルドーニ先生の授業参観に行くつもりだったのだ。 「疲れるだろうから、昼食を持って行ってあげようと思っていたのに」  授業を、生徒を放り出して突然飛び込んで。  しかも明るいうちから情事に耽る、などもっての外だ。  しかし、残された生徒は気になるところ。  放ったらかしにされて、所在無げにしているのではないだろうか。  今からでもルドーニの代わりに先生役を務めようかと、ヴァフィラの足は自然と講義室の方へと向いていた。

ともだちにシェアしよう!