390 / 459

第十五章・22

「ところで」 「何だ?」  この箱の事なんだが、とヴァフィラがテーブルの上へ置いたのは、くだんの煙草の入った木箱だ。 「この箱を見ると、なんだか胸がざわめくんだ。見ると煙草入れのようだが、記憶を失っている間に何かあったのだろうか?」 「え? あ、その」 「目覚めた時、妙に喉がいがらっぽくて頭痛がしたのは、もしかしてこの煙草を吸ったせいかな?」 「いや~、ヴァフィラは煙草は吸わないだろ」  でも、と妙に食い下がるヴァフィラのまなざしは真剣そのものだ。 「もう一度、この煙草を吸えば、記憶を失った時のことを思い出すかもしれない」 「や、それはダメ。やめとこう、な!?」  もう一度吸わせたいのは山々だ。なにせあの時のヴァフィラと来たら……。 (激エロだったもんな、ムフフ♡)  我を忘れて乱れたヴァフィラの姿が眼に浮かぶ。 「何を思い出し笑いなんかしているんだ。やはり、何かあったのだな!」 「な、何もないって!」  不毛な言い合いが続く二人の仲に、ようやく日常が帰って来た。

ともだちにシェアしよう!