397 / 459

第十六章・7

 髪を撫でてくる掌の感触に、目覚めた。  は、と我に返る。  一瞬、気を失ってしまったらしい。  どのくらいだろう、意識がなかったのは。  ただ、ルドーニの姿はすでに体内にはなく、乱れた寝着も整えられている。  ふと、紫煙のくゆりを感じた。  ルドーニは、私の前では煙草を吸うのはやめたはずなのに。  それに、バラ園に灰を落とされるのはごめんだ。  軽く彼の髪をひっぱり、いたずらを咎めるような声をかけた。 「こんなところで煙草を吸うのはやめてくれ」  ん、と首がひねられる気配。  そして笑いをふくんだ声が返ってきた。 「何? 今日に限って。外でヤッたから、興奮してる?」  なんて下劣な言い回しを!  甘い気分はたちまち霧散し、ヴァフィラは髪どころか頬をつねった。 「何だ、その返事は! とにかく煙草を消せ。今すぐにだ!」  へいへい、と人を食ったような声。  そして、伸びてくるたくましい腕。

ともだちにシェアしよう!