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第十六章・33

「大丈夫。平気だから、して」  幼い時分から、心ない大人たちにさんざん弄ばれてきた体だ。  いまさらアドリアノ以外の人間に肌を許しても、履歴が一つ増えるだけだ、とアプロスは割り切っていた。  それで、アドリアノのところに戻れるのなら。 「キス、するよ?」 「ん」  ルドーニの顔が近づいてくる気配がする。  大丈夫。  これは、仕方のないこと。  しかし、そう思った瞬間、過去の忌まわしい記憶がどっと蘇ってきた。  そう、あの時も、仕方のないことと自分を誤魔化しながら耐えてきた。  アドリアノに出会うまで、そう思って耐えてきた。  アドリアノ。  僕を、そんな奈落の底から引き上げてくれたアドリアノ。 「や! 待って。やっぱり、ダメ!」 「頼む、アプロス!」 「いや! ごめんなさい、許して!」  それでもルドーニは圧し掛かってくる。  脚を割り、体をねじ伏せにかかる。 「いやあぁあ!」

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