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第十七章 バラのアップルパイ

 何か食べたいものはない? と問われて、アップルパイ、と答えた。  さして深くも考えず、ヴァフィラは、そう答えた。  ルドーニの作るアップルパイは、絶品だ。  りんごの季節もまもなく終わる。  名残の旬の味覚を味わっておきたい、との考えは後付けではあるのだが。 「アップルパイね。OK」  やたらいい笑顔でルドーニがそう言うものだから、ヴァフィラは胡散臭げな顔になった。 「何、考えてる?」 「何も~?」  どうだか、と肩をすくめた。  だから3月23日に、そのアップルパイを眼の前に出された時には、自分のひねた考えを反省した。

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