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第2話(陽太の章)
「陽太、これからカラオケ行こうぜっ」
「今日は、パス。また、誘って」
陽太は目の前で両手を合わせて謝る仕草をしてクラスメイトの誘いを断ると、教室の前で陵が出てくるのを待った。
陵とは毎朝一緒に登校しているが、クラスが違うこともあり基本的に帰りは別行動だ。
朝の委員長の言葉を信じたわけではないが、次に陵が狙われる可能性はゼロではない。ボディーガードとまではいかないまでも、しばらく一緒に帰るつもりだった。
「陵、一緒に帰ろう」
陽太が自分を待っていたのに気付くと、陵は少し驚いたように目を見開き、すぐに眉を顰めた。
「ひょっとして、俺の事、守ろうとしてる? 女じゃないし必要ない。余計なことするなよ」
「そんなつもりじゃないけど、一人より二人の方が安心だろ? なんせ美少年が狙われてるらしいし、お前、絶対ヤバいじゃん?」
「それだったら、陽太だってヤバいじゃん」
「はぁ? 俺? 全然ヤバくないしっ」
「いや、お前、顔いいだろう。うちのクラスの女子だって、陽太の事をかっこいいって言ってるし」
他人に一切興味がない陵が、クラスの女子の噂話に耳を傾けていたことに唖然として、まじまじと顔を見つめると、慌てたように言葉を重ねた。
「別に、お前のことがかっこいいとか顔が好きとか俺が思ってる訳じゃないし。あくまでも一般論だからっ」
少し、顔を赤らめて焦って言い訳をしている姿に口元が緩む。
本人にバレたら怒られるが、こんな陵の姿が同性なのになぜか可愛く感じられて、思わず抱きしめたくなるのだ。
こんなにも表情が豊かで可愛らしい陵の姿をみんなは知らない。それはすごくもったいないことだと陽太は思うのだった。
「それにしても、例の神隠しって目的は何だろうな?」
陵は立ち止まって、少し遠くを見るように目を眇めた。
「探してるんだと思う」
「え?」
「本物じゃないから記憶を消して返してる」
陵の言葉の意味が理解できなかった。
もっと詳しく、その真意を尋ねようと陽太が口を開くと、それを察知したのか、陵は誤魔化すように話題を変えた。
気になったものの、それ以上触れることは出来ず、そのまま家の前で別れた。
それが陵を見た最後だった。
次の日の朝、いつものように起こしに行くと陵はいなかった。
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