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第3話(陽太の章)

 陵が行方不明になって1週間が過ぎた。  例の神隠しなら、1ヶ月ほどで元気に戻ってくるはずだ。  陵の両親をはじめ、警察や学校関係者は、陵の失踪をそれほど深刻に受け止めておらず、1ヶ月たったら無事に帰ってくると信じて疑っていない様子だった。  しかし、陽太は言いようのない不安を感じていた。  陵は姿を消す前に、「本物じゃないから記憶を消して返してる」と言った。  それは言い換えれば、本物ならば返されない、つまり無事に戻ってこれないということに他ならない。  陵は神隠しについて何かを知っていたことは間違いない。  陽太は、周りの大人のように、楽天的に考えることが出来なかった。 「委員長、例の神隠しにあった1年の名前とか連絡先、知ってる?」 「うん、実は同じ中学の後輩。あいつ、しばらく、学校を休むらしい」 「話を聞きたいんだけど、なんとか会えないかな?」 「どうかな、全然覚えてないらしいけど……あのさ、横山なら、1ヶ月で戻ってくるんだから、わざわざ探さなくても大丈夫じゃない?」 「戻って来なかったら? それに1ヶ月で戻ってくるにしても、その間、何をされてるかわからないし……あいつを助けるために、出来ることはしたいんだよ」 「うーん、じゃあ、帰りに寄ってみるか?」 「ありがとう」  授業が終わるとすぐに、二人は神隠しにあった1年の家に向かった。  母親は買い物に出かけていて、本人が一人で留守番をしていた。  事情を説明すると、話を聞かせてくれることに快く了承してくれた。  委員長が美少年と言った通り、整った顔つきの小柄な少年で、1ヶ月も監禁されていたなんてことは全く感じさせないほど、肌ツヤもよく元気だった。 「あの、本当に全く記憶が無くて……朝、起きたら1ヶ月経っていたって感じで……」  少年は申し訳なさそうな顔で答えた。  この様子では、大した情報は得られないかもしれない。とりあえず、一番聞きたかったことを尋ねる。 「どこか怪我をしていたり、違和感があったりっていう事はないの?」 「怪我は全くないです」  少年の言葉にわずかな引っ掛かりを感じて、陽太はしつこく食い下がった。 「じゃあ、違和感は?」  少年は少し逡巡したのち、言いにくそうに口を開いた。 「えーと、あの、誰にも言ってないのですが……事件後、夢をみるようになって」 「どんな夢?」 「うーんと、あの……、変に思わないでください……エッチな夢をみるようになって……」 「えっ??」 「体が疼くというか……毎朝、夢精するようになってしまって……今まで、そんなこと全然なかったのに……」  どういうことだろう? 委員長と顔を見合わせる。 「お前さ、1ヶ月禁欲生活だったから、ムラムラきてるってこと?」  委員長が喰い付く。 「僕、もとから淡白で、そんなムラムラくることもなかったし、そもそも夢精もしたことがなくて……寝る前に2、3発抜くようにしても効果が無くて……ホント、困ってるんです」  精力絶倫になったということだろうか?   寝る前に抜けという以外、出来るアドバイスもなく、お礼を言って二人は家を後にした。  このことが事件に関係があるのか陽太には判断できなかった。何とかして、他の被害者の話も聞きたい。    家に帰ると、リビングで陵の両親と母親が話をしていた。  仕事の関係で、一旦、日本を離れないといけないらしい。  お互いに密に連絡を取り合うことを約束して、翌朝、海外に戻って行った。

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