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-陽太の章- その10
「陽太?」
誠に顔を覗き込まれて、陽太は我に返った。
白昼夢? 先ほどの夢の余韻が後を引いているようで、頭がぼんやりしている。
――今の声は、何だったのだろう?
何か重大な記憶の断片を掴みかけたのに、するりと遥か彼方むこうに逃げられてしまった。
「陽太、ちゃんとお前が魔王を仕留めるんだ」
逃げや誤魔化しを決して許しはしない……そんな目で誠が見てくる。
魔王を仕留めるということは、陵を手にかけるということ。
そんなことが陽太に出来るわけがなかった。昔から、陵のことを守るのが陽太の役目だった。
それなのに、いくら魔法使いのためと言っても、陵を傷つけることができるはずがない。
「俺には出来ない。申し訳ないけど、俺にとっては陵の方が大事だから」
その答えを予測していたのか、誠は動じることなく言葉を続ける。
「よく考えろ。今の陵は、本当にお前が知っている陵なのか?」
なぜか、反論が喉の奥で硬い塊となって詰まる。
「本当は苦しんでいるんじゃないのか? 陵を魔王の呪縛から解き放ち、その魂を救ってやるべきだ。それが出来るのはお前だけだ。魔剣の力は、魔王が愛したものでなければ発揮できない。魔王を救えるのは魔王が愛した人間だけ」
本当にそうなんだろうか?
陵のために、それが一番いいことなのだろうか?
いつまでも一緒にいたいと思うのは、自分の我が儘なのだろうか……
「ごめん。ちょっと一人にしてほしい」
誰にも邪魔をされずに、よく考えたかった。
このまま、誠の話を聞いていると、まるで陵を傷つけるのが陵の為になるような気になってくる。
誠は陽太の肩をポンポンと軽く2回叩くと、肩を竦めて部屋を出ていった。
――もう一度、ちゃんと陵と話したい。
携帯を手に眺めていると、メールが来た。委員長からだ。
陵が待っているから、一人で会いに来いという内容だった。
――罠かもしれない。それでも陵に会いたい。
陽太は財布をポケットにねじ込むと、そっと部屋を抜け出した。
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