14 / 19
-陵の章- その2
その当時、地方に単身赴任となった父親のところに世話に行くため、月に2、3日、母親は留守にしていた。
一人になる陵を気遣って、陽太が泊まりに来ることが恒例となっていた。
その日も、陽太が泊まりに来ていた。
徹夜でゲームをしようと言っていたのに、22時を過ぎるころには、隣で陽太が寝息をたてはじめた。
いつものように、そっと舌先を這わせてその唇の表面をなぞる。
陽太は眠りが深く、一度寝付くと、中々起きることはなかった。
おっかなびっくりで触れるだけのものだったのが、それだけでは我慢できないようになり、次第に、大胆なものに変化していた。
本格的に寝付いたことを確認すると、何度も何度も、その唇に舌を擦り付けて舐った。
最初は薄いピンク色だったそれは、ぽってりと赤く色づき、陵の唾液でふやけて、より一層、とろけるような柔らかさに変化する。その感触に陵は夢中になり溺れた。
陵は同じ塾に通う女子中学生に告白され、定期的にセックスをする間柄になっていたが、陽太に対する一方的な行為はその何倍も興奮した。
朝になって何も知らずに笑う陽太の顔を見るたびに、今度こそはやめようと決心するが、いざ、陽太が泊まりに来ると自分をとめることが出来ず、夜中の秘密の行為を繰り返してしまうのだった。
そんなある日、保健体育の授業で性教育を受けた。
陽太が、どんな風に自分のものを扱き、どんな顔で達するのかどうしても見たくなり、一緒にオナニーをしようと誘ってみた。
いつも外で走り回っている陽太は、下ネタとは無縁で、そういった経験は全くなかったようだった。
何事も器用にこなす陽太が、勝手がわからず戸惑いながら真っ赤になって照れている姿にきゅーっと心を鷲掴まれる。
――欲しい、陽太の全てを自分だけのものにしたい。
固まっている陽太を促し、下半身をむき出しにしてベッドの上で胡坐をかいて向かい合わせになる。
陽太のペニスはピンク色でまだ剥けておらず、体の大きさとは対照的に子供のもののままだった。
――触りたい。唇のように舌先で思う存分、舐って、ドロドロに蕩けさせて、ふやかして柔らかくしたい。
触れてもいないのに、想像だけで陵のペニスは硬く立ち上がり、今にも達してしまいそうだった。
陽太はおずおずと自分のペニスを握ると、前後に扱き始めた。こんな風に握るのは初めてなのだろう。そのぎごちない動作に陵は、ますます欲情した。
柔らかだった陽太のペニスもその形を変え、硬く立ち上がってきて、息も段々乱れてくる。
艶めかしく煽情的な表情で、黙々と動かす手。
ぴちゃぴちゃと響く卑猥な水音。
高まる熱量。
「うぅっ」
小さな呻き声とともに、プルッと痙攣して陽太は掌に吐精した。
陽太の匂いが、あたりに立ち込め、瞬時に陵の理性を奪った。
――陽太につっこみたい。押さえつけて、無茶苦茶に犯して、自分だけでいっぱいにしたい。ずっと、ここに閉じ込めておきたい。
陵はすばやく、頭の中で算段した。
陽太と自分では力の差があり過ぎる。でも、手足を拘束することが出来れば、可能かもしれない。
むしろ、どうしてもやりたいと泣き落とした方が、可能性が高いのか?
陵は悩んだ。
そうだ、一層、ナイフで刺し殺して、それから気が済むまで犯す方がいい。
それはすごく良い考えに思えた。
そうすれば陽太を永遠に自分のものにできる。
この先、誰に取られることもなく、ここに閉じ込めておける。
机の中のナイフを取りに行こうと立ち上がりかけた時、陽太が怯えたように自分を見ているのに気付いた。
陽太は慌てて目を逸らすと、手に着いた精液をティッシュで拭い、「もう、家に帰るわ」と独り言のように呟いて去って行った。
陵は一人になると、布団にもぐりブルブルと震えた。
自分が怖かった。
陽太が怯えたように見なければ、なんの躊躇もなく刺していた。
頭がおかしくなっているのかもしれない。
陽太を自分のものだけにしたくて、気が狂いそうだった。
その晩、陵は夢を見た。
つらくて悲しい、そして救いのない、長い夢だった。
それは、魔王になった黒の魔法使いの悲しい物語。
決して、思いは報われることはない。
何度も何度も、生まれ変わる。
新しい生を受けても、狂おしいほど、あの人を求めてしまう。
どんなに愛しても、愛し返されることはない。
最後は必ず、愛しいあの人にあの剣で滅ぼされる。
そして、また、最初から繰り返す。
今度こそ……という望みは叶えられることはない。
この呪いの輪廻から解放されることはない。
……自分も、あの人も。
それは不幸なのか、幸福なのか、陵にはよくわからなかった。
ともだちにシェアしよう!