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-陵の章- その4
「逃がしてしまい申し訳ありませんでした。ですが、居場所は突き止め、見張りをつけています。詳細はメールにて。では、失礼します」
委員長が辺りを気にしながら携帯で話している。
「逃がしてしまったって、陽太を監禁でもしてたの?」
陵が、物陰から姿を現すと、委員長は目を見開き、言葉に詰まった。
おそらく、陵には秘密にするように言い含められていたのだろう。
ここ数日の不穏な動きに、朝から委員長を見張っていたのだ。
「ワク様の指示で工場に……」
陵の射るような眼差しから委員長は目を逸らした。
その仕草から、監禁中に陽太にしたことは、容易に想像がついた。
内臓が震えるような激しい怒りが噴き上げる。
「で、今はどこにいる?」
「海岸沿いのリゾートマンションに」
詳しい住所を聞き出すと、陵はそのまま陽太のもとに向かった。
電車とタクシーで1時間ほどかかってマンションに到着すると、エントランスには、すでにワクが立っていた。
促されるまま、マンション前の浜辺を連れ立って歩く。
「陽太には手を出すな」
陵は、ギリギリとワクを睨み付けた。
誰であっても、陽太を傷つけるものは許さない。
「魔法使いは、妖魔に辱められる。魔力を吸い尽くすまで、繰り返し繰り返し……それはあなたが決めた約束事。何を今更?」
ワクは悪びれもせず、真っ直ぐに陵の顔を見返すと、妖艶な微笑みを浮かべた。
確かに、そのとおりだった。
もともと妖魔は、あの人に拒絶された自分のために……妖魔を介して間接的に結ばれるように生み出したものだった。
妖魔にあの人の精力を全て吸い尽くさせ、それを妖魔から得る。つまり、あの人と自分との新しい形のセックス。
それで満足していたはずだった。
だけど、今は……。陽太とは……。
「他の魔法使いは好きにすればいい。陽太だけは、手を出すな」
「監禁した3日間、昼も夜もなく不特定多数の妖魔に犯させましたが、あの方は快楽を貪り、泣いてよがったとか……。やはり淫乱の才をお持ちなのでしょう。後ろは処女だったというのに、こんな短期間で良い具合に開発されて、百戦錬磨の妖魔が、すっかり虜になってしまっ……」
「黙れっ!!」
陵は拳を握りしめ、ワクに振り下ろした。
陽太が自分以外に抱かれるなんて考えられない。例え、それが自分が作り出した妖魔であっても。
触れることができるのは自分だけだ。それ以外は誰であっても許さない。
「私があの人を殺し、呪いの輪廻を断ち切ります」
切れた唇から溢れ出た血をペロリと舐めると、白い歯をこぼした。
「もう、終わりにしましょう。何回繰り返しても、あの人の心があなたに向くことはありません。現に、一緒に過ごしている魔法使いと恋人関係になったようです」
ワクが差し出した写真には、望遠で隠し撮りをしたのか、陽太と男が写っていた。
親しげに顔を寄せ合っているもの、バルコニーでキスをしているもの。
そして、セックスをしているものまであった。
言い訳のできない証拠を突きつけられて、陵は認めるしかなかった。
「魔剣が日本に持ち込まれたようです。あの人はこの男とあなたを滅ぼす計画を練っています。さあ、決断をしてください」
急に全てが遠くなり、何も感じなくなる。
まるで、体中の血液が、心さえ凍ってしまったかのようだ。
陵は、能面のような感情の全く見えない表情で静かに告げた。
「殺せ。あの人を……陽太を殺せ」
ワクは、満足げに微笑んだ。
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