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-陽太の章- その13

 誠に救い出されて、一週間がたった。  組織の所有する海辺のリゾートマンションでの誠による心のこもった世話は、凌辱でボロボロだった陽太の心と体を癒した。  しかし、体力の回復にともない、新たな問題が生じはじめていた。  ――うぅっ、まただ……やってしまった  陽太は目覚めると、下半身にじっとりと纏わりつく不快な感触に頭を抱えた。    ――まさか、自分まで夢精に悩まされるようになるとは……これが色情狂ってヤツ? この異常性欲が怖い……    監禁の間、絶え間なく与えられた強烈な快楽は、すっかり陽太の体を変えてしまった。  妖魔によって、体の奥底に埋め込まれた淫欲の種火は、陽太の内部でぷすぷすと燻り、やがてじわりじわりと全体を蝕んだ。  いくら自分で処理をしても、収まることのない疼き。  この世のものとも思えない悦楽を知ってしまった体は、貪欲にそれを求め、寝ても覚めても、陽太の頭の中から情欲の炎が消えることはなかった。  禁断症状に苦しめられる中毒者のように、セックスがしたくてしたくて仕方がなかった。  陽太は、自分ではどうにもできない、抑えられない衝動に、恐れおののいた。  欲望に飲み込まれそうで、たまらなく怖かった。  ベッドの上で頭を抱えて涙ぐんでいる陽太に気付くと、誠はそっと背中を擦った。 「陽太、大丈夫だよ。あんな出来事は、悪い夢だったと思って忘れるんだ」 「苦しい……もう、嫌だ……」 「大丈夫。俺がついてる」  誠は、陽太が凌辱されたショックで苦しんでいると思っている。  陽太は隠していた。自分の体が、性交を求めて疼いて仕方がないことを。  誠が真実を知れば、自分の事を軽蔑するかもしれない。  あんな手段で凌辱されて、嫌悪すべきなのに、それがどうしようなく気持ちが良くて忘れられない。 「俺、頭がおかしい。狂ってる。だって、こうやって誠さんに体を触れられるだけで、勃起しちゃうし……それに、お尻に突っ込んで、無茶苦茶にかき混ぜて欲しいって気持ちが抑えきれない……」  とうとう、堪えられなくなり陽太は懺悔をするように告白した。  お前はおかしい、異常だとなじられることで、この体の疼きがおさまればいい。 「……っ!!」  驚いて、息をのむ気配がする。背中を擦る手が止まる。  誠に軽蔑された……覚悟をしていたとはいえ、心が凍る。  陽太は、黙り込んで身動きしない誠の顔をおずおずと見上げた。 「えっ、誠さん?」  そこに浮かんでいたのは、予想とは違い、侮蔑の表情ではなかった。それは、欲望にまみれた雄の顔だった。 「俺が慰めてやる」  誠の顔が近づいてきたと思った時には、歯列を割り開いて侵入してきた肉厚の舌で口腔を弄られていた。  獰猛な、まさしく本能むき出しの動物の口づけ。  息をすることも許されず、一方的に責め立てられ、犯すような乱暴な苦しさに、陽太の体は歓喜で震えた。  いつもの余裕のある誠とは不似合いな行為が、堪らなく官能を誘う。 「あっ、ううっ」  陽太は、低い呻き声をあげると全身をプルプルと震わせた。  唇以外、どこも触れられていないのに、あっけなく射精してしまっていた。  陽太がすべてを吐き出すのを待って、誠の唇が離れた。  悲鳴をあげ限界を迎えていた肺が、ようやく新鮮な空気でみたされる。  途端に、下半身の気持ち悪さが気になった。  夢精によってぐちょぐちょに濡れていた下着にさらに射精したことで、寝間着代わりの短パンにも染み出てドロドロになっているに違いない。全て脱ぎ去りたい。 「お前、その顔は反則」  誠は舌なめずりをするように、ぺろりと自分の唇を濡らし、陽太の下着を取り去って、窄まりに指を差し込んだ。  すでに快楽の渦に巻き込まれ、全身がむき出しの性感帯となってしまった体は、そのささやかな衝撃でさえも、絶頂へといざなう。   「おっ、もう緩んでる。このまま、入れられるな」  嬉しそうに呟くと、ベルトを緩めて自分のものを取り出し、ヒクついている窄まりへとあてがった。 「うっっ」  陽太の足を肩に抱え、力強く腰を抱きかかえるようにして、一気に熱い塊で貫いた。  慣らされもせず、固く閉じているはずの窄まりは、誠の浅黒くて大きなペニスを容易く飲み込んでヒクヒクと蠢いている。  陽太のそこは、もはや排泄器官ではなく男の雄を飲み込む性器へと変えられてしまったかのようだった。 「あぁっ! 気持ちいいっ! あっ、誠さんの大きくて、ちょうどいいところにあたるっっ! もっと、奥に……」  陽太は自らも腰をくねらせながら夢中で叫んだ。  張り出した傘の部分が、ちょうど前立腺のしこりにあたって、信じられないほど気持ちが良い。  陽太は、気が遠くなるほどの愉悦に涙を流して身をゆだねた。  ――桃源郷って、こんな感じなんだろうか。  少し前の自分では考えられないことだった。  あんな凶器のように大きく、グロテスクなペニスを尻の穴に突っ込まれて狂喜するなんてあり得ない。   「陽太っ、お前の中、すごいっ! うぅ、持っていかれるっ! やばいっ!」  叫びながら、誠が激しく突いてくる。 「はっ、はっ」  言葉を交わす余裕はなかった。  肉のぶつかる音と、水音、そして激しい息遣いと喘声のみが辺りに響く。 「うぁっ」  雄叫びの様な声をあげて陽太の中に射精した。  ドクドクと誠の鼓動がペニスから腸壁へと伝わってくる。  ――息苦しい。うまく、呼吸が出来ない。  まるでマラソンを走り終えた後のように、二人は息を荒げて無言で抱き合った。  ようやく、息が整うと、誠が慌てた声を出した。 「しまった。バリアをはるのを忘れてた。余裕が無くてそんなところまで頭が回らなかった。こんなの初めてだ……」 「えっ! 妖魔が襲いに来る前に、逃げなきゃっ!」  陽太が驚いて跳ね起きると、誠が後から羽交い絞めに抱きしめ、耳元で囁いた。 「ダメ。まだ、おさまらない。こんな状態じゃ移動できない。気が済むまでやらせて。今度は後ろから入れていい? ちゃんとバリアはるからっ」  陽太が答える前に、腰を抱えられ後から挿入された。  それからは、ありとあらゆる体勢で繋がった。  妖魔に居場所がバレたかもしれない。早く、逃げなきゃとわかっているのに、互いの体に溺れ、繋がりを解くことが出来なかった。    幸いなことに、妖魔は現れなかった。  陽太と誠は、恋人同士のように暇さえあれば、マンションでまぐわった。  そんなある日、朝から組織の支部に行っていた誠が魔剣を持って帰ってきた。 「陽太。この魔剣で魔王を滅ぼせ」  陽太の顔を探るようにじっと見つめる。  その視線に耐えきれず、目を伏せて答える。 「やっぱり、俺には陵を殺すなんてできない……」  陵を魔剣で殺害することは、魔王の呪縛から解放することになる。それが出来るのは自分だけだと説得されて、一時は納得しかけた。  でも、自分が陵を手にかけるなんて、どう考えても出来ない。したくもない。 「もっと、良い方法があるんじゃ……」 「魔王は、お前が思っているようなものじゃない。冷酷で残忍でずるがしこい。ここで、断ち切らなければ、大変なことになる。魔法使いだけの話じゃない。全人類にも関わってくる」 「そんな、大袈裟な……陵はそんなことしないよ」 「陵はそうかもしれない。でも、魔王は? 魔王になったあいつのことをちゃんとわかっていると言い切れるのか? 現に、お前を妖魔に凌辱させて傷つけたじゃないかっ! 俺が助けに行かなければ、お前は凌辱され続け、衰弱して、そのうち死んでいた」  誠の言う通りだった。絶対に、陵なら助けに来てくれると思ったから、罠だとわかっててあえて飛び込んだ。  でも、陵は会いにさえ、来てくれなかった。 「魔王にとって、お前が死んだ方が都合がいいから助けなかったんだ。自分を滅ぼす可能性のあるのは排除する。それが魔王の考え方だ」  陽太は不思議な気持ちで、誠を見つめた。  言葉が右から左へと頭を素通りする。ちっとも内容を理解できない。  理解することを拒否しているのかもしれない。 「いつ、魔王に覚醒したのかは知らない。完全に魔王の考え方に染まる前に、陵という人格が残っている内に滅ぼしてやれ。それが、親友であるお前の責任だ。陵のために、ちゃんと自分の手を汚してやれ」  誠は陽太をぎゅっと抱きしめ、苦しげに呟いた。 「本当は、お前にそんなことをやらせたくない。代われるものなら代わってやりたい。………俺も一緒に苦しんでやる。ずっと、お前の側にいる。お前のことが好きなんだ。愛している……」  誠の唇が陽太の唇に重なる。ついばむような優しい口づけ。 「あいつ以外、誰も愛することはないって思っていたのに……」  独り言のように呟やかれた言葉が、胸に突き刺さる。  ――陵、俺は決めたよ。俺も自分の手を汚す。それが陵を助けることになるのなら躊躇しない。  陽太は禍々しく光る魔剣を手に取り、表面をそっと撫でた。

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