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第26話 大人の気遣い

 高校生たちは、元気。  おれはテルさんといる時のシュンの印象が強くって、シュンは甘えん坊というか末っ子気質が強いんだと思っていた。  だから、同級生たちと一緒にいる時のシュンがとても不思議。  突っ込み係というか、アニキっぽいというか、頼られている感があるっていうか、そんな感じ。  でもよくよく考えたら、テルさんに似ていてシュンもたいがい世話焼きだから、そういうポジションになるのは当然なのかもしれない。  そうか。  関家の人たちは家族レベルで世話焼きだから、シュンの世話焼きはデフォルトなんだな、きっと。 「だいたいさ、なんでお前らここにいるわけ?」 「そりゃあ、ハルボンが外出届を出してたから」 「はぁ?」 「サッキーが『あいつ、この間告られてた殿女の子とデートなんじゃね?』って言うわけよ。したら、気になるじゃん」 「ならねえわ。しねえわ。ふざけんな」  定食のおかずを守りながらうだうだと絡まれながら、ショッピングモールのフードコートで、わあわあと会話しているのを見ると、微笑ましいというか懐かしいというか。  自分の年齢感じちゃうよね。  パンを食べきってコーヒーを飲みながら、高校生たちを眺める。  でもって、自分がこの年齢の時はどうだったっていえば、今この時間としていることは全く一緒。  わあわあと騒ぐチュンや同級生を眺めていたんだけどさ。  変り映えのしないおれ。 「あ、すいません、騒がしくて」  気がついたように眼鏡くんがおれに頭を下げる。 「いいよ。懐かしくて、珍しくて、面白い」 「いっくん、珍しいって何?」 「お前が同級生といるの、初めて見たからさあ……高校生だなーこんな感じなんだーって」 「ああ、そう」  聞かれたから答えたのに、シュンが拗ねた顔をする。 「ええと、お兄さん? あんまり似てないけど……」  シュンに抱き着いていた子がおれを見てから、シュンに聞く。 「違う。ウチのアニキはオレよりでかい」 「って、言ってたよね? じゃあこちらは? あ、マジですいません。ついうっかりいつもの調子で……めっちゃお邪魔しましたよね」  抱き着いていた子も慌てたようにシュンの横に座って、頭を下げてきた。  勢いで騒いでも、気がついたらちゃんと軌道修正してて、いいこだなあって、思う。 「ホント、めっちゃ邪魔」 「邪魔なんてないよ」    シュンと声が重なって、あらま、ってなった。  ダメだろう友達に邪魔だなんて。  そう言いたい年頃なのはわかるけどさ。 「生方郁です。シュ……|春暁《はるあき》とは、親戚……みたいな? おれが彼のおじいさんにお世話になっていて、今日は久しぶりにご機嫌伺いに来ただけなんだ。いつも春暁がお世話になっています」  大人として当然でしょうっていう挨拶をしたら、シュンが不機嫌な顔になった。  わかるわかる。  おれもチュンとテルさんが挨拶しあってるの、めっちゃ困ったもん。 「いっくん、それやめて」 「挨拶は大事だろ」 「違う。シュンでいい」  不機嫌の理由が意外な方向で、驚いた。  おれが親戚ぶって挨拶するのを嫌がっているのかと思ったのに。   「あれ、そっち?」 「わかっているくせに」  友達の前で隠そうともしないで、シュンはいつもの感じで拗ねてみせる。  そうだね。  知っているよ。   「知っているけど、おれはお前の名前好きだよ?」 「うん、知ってる」  頷く姿は、かわいいなあって思うくらいに素直。  友達があんまり驚いてないのを見ると、きっと、学校でも寮でもこうやって上手に歳上に甘えているんだろう。   「っていうか!」  いい加減にしろってシュンが二人をにらみつける。 「もういいだろ? 今日会ってる相手、わかったんだし。もう行けよ」 「ええ、ハルボン冷たい」 「いやいや、今日は引こうな。サッキーに土産話はできたし」 「えええ? ぶーさん、一緒にいちゃダメ?」    一緒にいる二人の反対何のそので、シュンの隣の子はシュンに絡んでる。  そんなふうにおれに甘えるようにねだられても……って困ってしまってシュンの方を見た。  おれはどっちでもいいんだけど、シュンはどうなんだろう。 「ダメ。邪魔」  サクッと返事するシュンがに、びっくりした。  いや、そこはもう少しなんかあるでしょって。 「え~ねえ、ちょっとだけ。ちょっとだけ、相談したいことあるから、ちょっとだけ」 「寮に戻ってからでもいいだろ? オレは、いっくんといたいの」 「寮ではできない相談なんだって! なあ、ダメ? ぶーさん、ダメ?」  ここまで粘るってことは、『誰に会っているかの確認』っていう方が建前なのかなあって気がしてきた。  でも、せっかくシュンに会いに来たんだしなっていうのも、本音は本音。  邪魔されたとまでは思わないけど、なんかちょっともやってする。  寮でできない相談って何? とも思うし、そういうこともあったよねっていう記憶もある。  なので、考えた末に折衷案を出した。 「なあ、寮監って今も遠藤さん?」  唐突なおれの質問に、三人が驚いた顔をして頷く。  うん、まだ変わっていなくて良かった。 「じゃあさ、おれ、ちょっと買い物行ってくるから、その間話しててよ」 「え、ちょっと、いっくん」 「食品売り場行って、貢物買ってくる」 「貢物?」 「遠藤さんにはお世話になってるから、まだいるんだったら、何もしないって訳にはいかないんだよ」  だから買い物の間だけ友達の話聞いてあげなって、シュンに言ってその場を離れた。  大人だからね、そこは気を遣ってあげるでしょう。  もやってしても、それくらいは、ね。  遠藤さんはチュンやおれが寮にいた頃から、寮監だった。  ひょうひょうとした感じで、抜けてそうに見えるのに全然甘くなくて、おれは割と好きな感じだなって思っていた。  毎日本気で高校生と渡り合うには体力がいるんだよって、ぼやいていたのを覚えている。  思いついたものを買ってフードコートに戻ったら、席にいたのはシュンだけだった。 「話、終わった?」 「うん。あのさぁ、いっくん」 「あ、これ、荷物になって悪いけど、遠藤さんに渡して」  生方がよろしくって言ってたって伝えてね、とシュンに味もそっけもないエコバッグを渡す。  ホントはちゃんとした贈答品の方がいいのかもしれないけど、そうするときっと受け取ってくれないから、食品売り場で買ったものを、そこらで買ったエコバッグに突っ込んできた。 「何、これ」 「だから、遠藤さんに貢物。おれ、良く寝込んでたから、寮にいる時にはホントに世話になったんだ」 「チュンさんだけじゃなかったの?」 「チュンは同室だったから、そりゃあもう、今でも足向けられないくらいだけど、遠藤さんもね~……救急車こそなかったけど、病院連れてってもらったりしてるからさ」 「ああ……そういう」 「そういうこと」  重くて悪いねって、シュンに荷物渡す。  手にかかった重さに、ちょっと驚いた顔で、シュンが袋の中を見た。 「なにこれ」 「蜜豆缶とパックの漉し餡」 「は?」 「遠藤さんの好物。あと、猫グッズも好きだったはず。覚えとくといいよ」  そう言って笑ったら、シュンも一緒ににやって笑った。 「先輩からの大事な引継ぎ、承りました」 「マル秘情報だ、うまく使えよ」

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