26 / 38
第26話 大人の気遣い
高校生たちは、元気。
おれはテルさんといる時のシュンの印象が強くって、シュンは甘えん坊というか末っ子気質が強いんだと思っていた。
だから、同級生たちと一緒にいる時のシュンがとても不思議。
突っ込み係というか、アニキっぽいというか、頼られている感があるっていうか、そんな感じ。
でもよくよく考えたら、テルさんに似ていてシュンもたいがい世話焼きだから、そういうポジションになるのは当然なのかもしれない。
そうか。
関家の人たちは家族レベルで世話焼きだから、シュンの世話焼きはデフォルトなんだな、きっと。
「だいたいさ、なんでお前らここにいるわけ?」
「そりゃあ、ハルボンが外出届を出してたから」
「はぁ?」
「サッキーが『あいつ、この間告られてた殿女の子とデートなんじゃね?』って言うわけよ。したら、気になるじゃん」
「ならねえわ。しねえわ。ふざけんな」
定食のおかずを守りながらうだうだと絡まれながら、ショッピングモールのフードコートで、わあわあと会話しているのを見ると、微笑ましいというか懐かしいというか。
自分の年齢感じちゃうよね。
パンを食べきってコーヒーを飲みながら、高校生たちを眺める。
でもって、自分がこの年齢の時はどうだったっていえば、今この時間としていることは全く一緒。
わあわあと騒ぐチュンや同級生を眺めていたんだけどさ。
変り映えのしないおれ。
「あ、すいません、騒がしくて」
気がついたように眼鏡くんがおれに頭を下げる。
「いいよ。懐かしくて、珍しくて、面白い」
「いっくん、珍しいって何?」
「お前が同級生といるの、初めて見たからさあ……高校生だなーこんな感じなんだーって」
「ああ、そう」
聞かれたから答えたのに、シュンが拗ねた顔をする。
「ええと、お兄さん? あんまり似てないけど……」
シュンに抱き着いていた子がおれを見てから、シュンに聞く。
「違う。ウチのアニキはオレよりでかい」
「って、言ってたよね? じゃあこちらは? あ、マジですいません。ついうっかりいつもの調子で……めっちゃお邪魔しましたよね」
抱き着いていた子も慌てたようにシュンの横に座って、頭を下げてきた。
勢いで騒いでも、気がついたらちゃんと軌道修正してて、いいこだなあって、思う。
「ホント、めっちゃ邪魔」
「邪魔なんてないよ」
シュンと声が重なって、あらま、ってなった。
ダメだろう友達に邪魔だなんて。
そう言いたい年頃なのはわかるけどさ。
「生方郁です。シュ……|春暁《はるあき》とは、親戚……みたいな? おれが彼のおじいさんにお世話になっていて、今日は久しぶりにご機嫌伺いに来ただけなんだ。いつも春暁がお世話になっています」
大人として当然でしょうっていう挨拶をしたら、シュンが不機嫌な顔になった。
わかるわかる。
おれもチュンとテルさんが挨拶しあってるの、めっちゃ困ったもん。
「いっくん、それやめて」
「挨拶は大事だろ」
「違う。シュンでいい」
不機嫌の理由が意外な方向で、驚いた。
おれが親戚ぶって挨拶するのを嫌がっているのかと思ったのに。
「あれ、そっち?」
「わかっているくせに」
友達の前で隠そうともしないで、シュンはいつもの感じで拗ねてみせる。
そうだね。
知っているよ。
「知っているけど、おれはお前の名前好きだよ?」
「うん、知ってる」
頷く姿は、かわいいなあって思うくらいに素直。
友達があんまり驚いてないのを見ると、きっと、学校でも寮でもこうやって上手に歳上に甘えているんだろう。
「っていうか!」
いい加減にしろってシュンが二人をにらみつける。
「もういいだろ? 今日会ってる相手、わかったんだし。もう行けよ」
「ええ、ハルボン冷たい」
「いやいや、今日は引こうな。サッキーに土産話はできたし」
「えええ? ぶーさん、一緒にいちゃダメ?」
一緒にいる二人の反対何のそので、シュンの隣の子はシュンに絡んでる。
そんなふうにおれに甘えるようにねだられても……って困ってしまってシュンの方を見た。
おれはどっちでもいいんだけど、シュンはどうなんだろう。
「ダメ。邪魔」
サクッと返事するシュンがに、びっくりした。
いや、そこはもう少しなんかあるでしょって。
「え~ねえ、ちょっとだけ。ちょっとだけ、相談したいことあるから、ちょっとだけ」
「寮に戻ってからでもいいだろ? オレは、いっくんといたいの」
「寮ではできない相談なんだって! なあ、ダメ? ぶーさん、ダメ?」
ここまで粘るってことは、『誰に会っているかの確認』っていう方が建前なのかなあって気がしてきた。
でも、せっかくシュンに会いに来たんだしなっていうのも、本音は本音。
邪魔されたとまでは思わないけど、なんかちょっともやってする。
寮でできない相談って何? とも思うし、そういうこともあったよねっていう記憶もある。
なので、考えた末に折衷案を出した。
「なあ、寮監って今も遠藤さん?」
唐突なおれの質問に、三人が驚いた顔をして頷く。
うん、まだ変わっていなくて良かった。
「じゃあさ、おれ、ちょっと買い物行ってくるから、その間話しててよ」
「え、ちょっと、いっくん」
「食品売り場行って、貢物買ってくる」
「貢物?」
「遠藤さんにはお世話になってるから、まだいるんだったら、何もしないって訳にはいかないんだよ」
だから買い物の間だけ友達の話聞いてあげなって、シュンに言ってその場を離れた。
大人だからね、そこは気を遣ってあげるでしょう。
もやってしても、それくらいは、ね。
遠藤さんはチュンやおれが寮にいた頃から、寮監だった。
ひょうひょうとした感じで、抜けてそうに見えるのに全然甘くなくて、おれは割と好きな感じだなって思っていた。
毎日本気で高校生と渡り合うには体力がいるんだよって、ぼやいていたのを覚えている。
思いついたものを買ってフードコートに戻ったら、席にいたのはシュンだけだった。
「話、終わった?」
「うん。あのさぁ、いっくん」
「あ、これ、荷物になって悪いけど、遠藤さんに渡して」
生方がよろしくって言ってたって伝えてね、とシュンに味もそっけもないエコバッグを渡す。
ホントはちゃんとした贈答品の方がいいのかもしれないけど、そうするときっと受け取ってくれないから、食品売り場で買ったものを、そこらで買ったエコバッグに突っ込んできた。
「何、これ」
「だから、遠藤さんに貢物。おれ、良く寝込んでたから、寮にいる時にはホントに世話になったんだ」
「チュンさんだけじゃなかったの?」
「チュンは同室だったから、そりゃあもう、今でも足向けられないくらいだけど、遠藤さんもね~……救急車こそなかったけど、病院連れてってもらったりしてるからさ」
「ああ……そういう」
「そういうこと」
重くて悪いねって、シュンに荷物渡す。
手にかかった重さに、ちょっと驚いた顔で、シュンが袋の中を見た。
「なにこれ」
「蜜豆缶とパックの漉し餡」
「は?」
「遠藤さんの好物。あと、猫グッズも好きだったはず。覚えとくといいよ」
そう言って笑ったら、シュンも一緒ににやって笑った。
「先輩からの大事な引継ぎ、承りました」
「マル秘情報だ、うまく使えよ」
ともだちにシェアしよう!