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第29話 十八禁っていうのはさ
好きかもしれない、から、おつきあいしましょうの間がすごく短くて動揺したけど、チュンに言わせればのろまなんだそうだ。
「知り合って何年で、好きって言われてから何年だよ?」
ってことらしい。
それでも考えてみてくれよ、と思う。
ランドセル背負っているところを知っている相手なんだぞ? どれだけときめかされたって、優しさに涙が出そうになったって、迷うでしょ。
迷ってた時間が長くても、仕方ないでしょ。
ちなみに。
テルさんにはいつの間にかバレていた。
っていうか、おれの知らない間にシュンの口から喜びの報告されていた。
そして驚いたことに、諸手あげて祝ってくれたのはテルさんで、ひーさんからは特大の釘が刺された。
「シュンの生方家宿泊厳禁」
だそうだ。
あくまで未成年のうちは、キスまでしか許さん! って、物凄い圧で告げられた。
おれは、まあそうねって思っている。
まだ二十代なのに枯れていると言われても否定しない。
けど、肉欲よりは存在が大事なので。
シュンと一緒にいることや、シュンを独占することを禁止されるよりはずっといい。
とはいえ。
社会人と高校生のお付き合いというものは、予想以上に時間が合わないものなのだなあって、なっている。
ホントにね。
定期テストで成績を落とせないとか、寮の門限が厳しいとか、学校行事が忙しいとか、理由はいろいろ。
シュンは基本的にまじめな奴なので、そういうとこうまく手を抜けない。
お母さんたちへの意地もあるんだと思う。
お母さんは世間一般の枠にはまらないことを、物凄く嫌っていて、テルさんのことを認められなかった。
シュンは今、自分がそう言われるのはいいけど、おれが言われるのは我慢ならないんだって言う。
だから全部を頑張るんだってさ。
おれはそう言うシュンがかわいくて、心配でたまらない。
パンクしないといいなと思う。
頑張りすぎて、おれを重たく思わないでくれたらいいなって、思う。
ものすごく勝手なんだけど。
春休み、新学期が始まる前に一緒に寺に顔を出しておこう、ってなった。
大体の方向は決めてるって言っても、これから本格的に大学入試の準備が始まるからね。
今のうちに、テルさんと住職と一緒に話をするんだって。
で、久しぶりに会う生のシュンなんだけど……けど。
仕事の都合で待ち合わせして一緒に関家に来ることはできなくて、ちょっと残念。
小旅行気分も味わいたかったんだけどな。
おれは住職のとこに、完成した史料のデジタルデータの納品。
紙の書籍にするかどうかは、これからの相談ですよっていう話もしてから、関家に向かう。
チュンは学校の終業式が終わってから来るってさ。
で、久しぶりの関家での再会となったんだけど、暫く会っていなかった間に、シュンがすごくでかくなってた。
いや、既に身長を抜かれているのは気がついてたんだけどさあ、テルさんよりでっかくなってるって、どういうことだよ?
おれは見上げるようになった顔の位置に動揺してしまって、シュンを指さして言う。
「誰だお前!」
「ええ?」
顔を指したおれの指を握って、アワアワと焦っているシュン。
ふふふ、こういうところはかわいい。
「おれのかわいいシュンは、どこ行った~」
「えええ? ここ、ここ。ここにるから」
「うん、知ってる」
いくらおれでも、自分の大事な人の顔は、そんなに簡単に忘れたりしないからね。
最近おれは、シュンをからかうのがちょっとしたマイブーム。
だってちゃんと焦ってくれて、かわいいんだ。
って、喜んでいたらそれを見ていたテルさんが、にこにこして言った。
「いっくん、すっかりかわいくなって。良かったな、シュン」
「うん」
「ぅえ?」
テルさんの目から見ると、シュンに懐いたおれが、甘えているように見えるんだそうだ。
ちょっとショック。
でも、シュンが嬉しそうだから、いいことにした。
シュンで遊ぶのも楽しいしね。
滞在中の部屋は、お互いに以前使ってたところ。
おれは一階の和室で、シュンは二階の部屋。
そこはねえ……うん、やっぱり保護者がいるところで同室は、照れちゃうよねって、おれは納得していて、シュンが拗ねるいつもの構図が展開されてます。
テルさんがこの家に一人になったことで、ひーさんが移住してきていたのはご愛敬だけどね。
「なんで? ひーちゃんとテルちゃんは同じ部屋で、いっくんとオレはダメなの?」
ズルいズルい羨ましすぎるって、シュンがひーさんに絡む。
「うるせえ、未成年」
「あ、違うよ、ひー。シュン、成人だから」
「んあ? ああ……そうか、成人年齢引き下げか」
今、不思議な単語が聞こえた。
「え? シュン成人? 高校生だよね?」
「ほら、成人年齢が下げられただろ。シュンは四月二日生まれだから、誕生日過ぎてるしね。もう成人」
えええ? そうなんだ?
「へえ、高校生で成人って、不思議だねえ」
「っていうか、ケーキ忘れてた。買いに行ってくるな」
「いいよ、小学生でもないし」
「良くないだろ。何ならホールで食うか? 食えるだろ?」
「食えるけど、ホールで食ってどうするよ。めっちゃ甘いじゃん」
んん?
テルさんが何がなんでもケーキを買いに行くぞって勢いで、シュンが嬉しそうに嫌がっていて、おれはちょっと考えた。
ああ、そうか。
誕生日。
関家は誕生日はケーキを食べる家なのか。
「いっくん?」
「はい?」
「どうかした?」
「関家は誕生日にケーキ食うんだなあって」
「生方家は違う?」
そうだ、大人になって忘れていたけど、他の家は誕生日を祝うんだったなあって、思い出した。
その感覚がなくて、シュンの誕生日もさっき知った。
「誕生日は身分証明のための日付って家」
笑ってそう言ったら、一番痛い顔をしたのはひーさんだった。
テルさんはおれがちょっとずれているって知っているから、ここもかって顔。
シュンは多分、気がついていたんだと思う。
だって今まで一度も誕生日の話はしたことがなかったから。
「じゃあ、これからは毎年祝わないとな」
「そうだね」
ひーさんがそう言って、テルさんが同意した。
「ちなみに、いっくんの誕生日、いつ?」
「一月二十一日」
そう言ったら、この間じゃん! 過ぎてんじゃん! ってシュンが悲痛な声を上げて、ひーさんとテルさんが即、ケーキ買いに行ってしまった。
「え……誕生日って、そんな大事?」
おれはおそるおそるシュンに聞く。
シュンは困ったように笑って、頷いてからおれを抱きしめた。
「生まれてきてくれてありがとう、これからもよろしくって、祝う日だって、オレはテルちゃんに言われてきた」
「そうなんだ」
「今度からは、お祝いさせてね」
「うん」
シュンの誕生日は、今日知った。
ちゃんと覚えた。
あとで、ひーさんとテルさんのも聞いておこう。
それでプレゼントも用意しよう。
ドラマや本や作り物の中だけのイベントじゃないって、知ったんだから。
「で、何にも用意できてないから、プレゼントの予約変わり」
ちゅって頭のてっぺんにキスが落ちてきて、おれは最近覚えさせられたとおりに顔を上げる。
今までよりも角度がつくのが、ちょっと悔しい。
おれが顔を上げたのが合図で、シュンがおれの唇を咥える。
ペロッと舌で合せ目を舐めてからはむはむと下唇を甘噛みして離れていった。
「成人のお祝いに、いっくんが欲しい」
すごく甘い声でそう言われて、頷きかけた。
「いやいやいや、待って、エッチは大人になってから!」
「オレ、十八。成人したし、選挙権あるし、アダルトコーナー解禁」
「おれの常識では、ハタチからなの!」
「何そのこだわり」
「ジジイだからね」
「どこが。こんなかわいいのに」
でもダメ。
おれの中で成人はハタチ。
十八禁ていうのはさ、いろんな意味で守らなきゃだめだけど、それよりも守らなきゃなのは未成年厳禁。
関家の居間で、やらせろダメだともめていたら、帰ってきたひーさんにごつんとゲンコツを落とされた。
「この家で盛るなお子様が! 少なくとも自活するまではお預にしとけ、ばかやろう!」
ひーさん、おれ、アラサーなんだけど。
頑固おやじの言い分には納得するけど、くくりがシュンと一緒でちょっとショックです。
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