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第30話 ハタチの誕生日

 おれは小心者で。  シュンは口ではいろいろ言ってるけど、すごく真面目。  なのでひーさんが頑固おやじと化してから、清廉潔白なお付き合いです。  付き合い始めからずっとなんだけどね。  シュンが大学に通うようになって、おれの部屋に来るのは解禁になった。  って言ったって、時間のすれ違いは相変わらずだから、できたところで濃厚ちゅうどまりだった。  時々触れてしまう固くなったシュンのシュンとか、慌ててトイレに駆け込む姿とか、かわいそうだと思いながらかわいくて。  そして、すっごく、申し訳なく思うのに、踏み切れない。  だっておれは小心者なんだよ。  おれの行動で、関係が壊れてしまうのは、とても怖いんだ。  そして、どんどん身動きが取れなくなっていく。  シュンはかわいい。  おれを求めてくれるのは嬉しい。  でも。  いつまで求めてくれるんだろう。  お預けのままで飽きちゃわないかな。  もっと簡単で分かりやすくて優しい子に目移りしちゃうんじゃないだろうか、なんてことを考えてしまったりする。  そんなぐるぐるしたままで、季節は巡る。  シュンはちゃんと大人になっていっていて、動けなくなるおれと、自分の欲求と、大人の言いつけの間の抜け道を上手に見つけ出す。 「オレがいっくんかわいがる分には問題ないだろ!」  しゅんがそう言いだしたのは夏のことで、その晩は全身をくまなく愛された。  詳細を思い出したら大変なことになっちゃうから勘弁してくださいって感じで、一晩中啼かされた。  当然、こっちからだってお礼するだろ。  やられっぱなしは性に合わないし、おれだってかわいいシュンが見たい。  ってだんだん行為が進んでいって「だから、合体しなきゃいいんだよ!」って、シュンがぶっちぎれたのは秋口。  そうなると経験がモノを言うからね。  シュンを押し倒して口でかわいがった。  し返されたし、ここから先に進むのに準備は必要だろって、下の口もかわいがられるようになったけど。  頑固おやじめ。  自活できるようになったらって、おれはもう自活してるのに。  そうは思うけど、そこにあるのはちゃんとシュンに対する愛情だってわかるから、これ以上の強行突破はできない。  たとえどれだけ不安があっても。  最近シュンの周りに女の子の影が見え隠れしているんだ。  おれのなかで『おれじゃないんだよ』って思うおれが、もぞもぞし始める。    シュンが同居を口にするようになったのは、年が明けてからだった。  それをかわしながらおれの誕生日。  テルさんが、約束したようにケーキとプレゼントを用意してくれて、なんだかどうしようのなく嬉しくて、涙が出た。  関家の二人は、おれの涙スイッチ持っているに違いない。  それにムラついたとかで、二人になったとたんに押し倒されて、今度はホントにセックスまで持ち込まれそうになる。 「ちょ、まって!」 「待たない! よく考えたら、なんでひーちゃんの言いつけ守らなきゃなんないのか、わかんない! オレはもう、ちゃんと生活できるしいっくんはちゃんとした大人じゃん!」 「それでも! 待て! エッチはハタチになってから!」 「だから……なんでハタチなんだよ」 「おれにとってはそこが成人だから」  ううう、いっくんが冷たくてかわいくてどうしよう。  シュンはそう言っておれを抱きしめる。  だって考えるだろ、年齢差とかさあ。  せめてお互い成人になってからって、思っちゃうのはしょうがないじゃないか。  自活は多分、ひーさんのこじつけで、反対してるんじゃないんだ。  確かめられてるんだと思う。  おれの気持ちも、シュンの気持ちも。      シュンがハタチの誕生日に、欲しがったのはおれだった。     「いっくんが、オレのこと考えてくれてるのはちゃんと知ってる。ちゃんとわかってるんだ。でも、お願い。今夜だけ。おまけして。次、またちゃんと我慢するから」 「シュン……?」  おれがシュンの向こうに見え隠れする誰かに怯えていたように、シュンも、おれの向こうに誰かの影を見ているって、その時に知った。  そうだよね。  どれだけしっかりしていたって、シュンはおれよりずっと若いんだ。 「今までの経験を言ってもしょうがないことはわかってるけど、でも、こんなに経験してるいっくんが、オレを待ってくれるかなんて、保証ない」  おれを抱きしめて、シュンが震えた。   「好きだよ。いっくんが好き」 「ホント、しつこいよね、お前」 「一途って言って」 「色々見て、ちゃんと選べっていってんのにさ」 「選んだじゃん」 「おっさん選んでどうするんだよ」 「いっくんを選んだんだよ」  オレが好きなのはいっくんだから、いっくんが欲しいと、怯えた少年の顔でシュンが言う。  出会った頃は、まだまだ少年だった。  名前を知るまで、心の中で『少年』って呼びかけてたのを覚えてる。  まだ背も低くて、細くて、頼りなげで、きゅっと唇を引き結んでまっすぐな視線をしていた。 「いっくん、好きだ」  いつの間にか、こんなに大きくなって、力強くなった。  少年だったころのシュンは、確かにまだシュンの中にいて、今でも俺を求めてくれていた。  おれはなんで自分を縛って我慢していたんだろう。  シュンは以前に教えてくれていたのに。  言わなきゃわからないんだ。  言っても壊れる関係ばかりじゃないんだ。  シュンは大丈夫。  おれを好きでいてくれる。  おれは好きでいられる。    シュンと生まれたままの姿で向き合うのは、初めて。  今までは少しだけでも理性を残したくて、どっちかが衣類を残していた。  二人とも全部の布を床に落として、抱き合った。  ベッドの上に押し倒されて、たくさんキスを貰う。  おれからも、あとが残るキスをする。 「あ、ん……った、いっくん、これ痛い」 「けどほら、綺麗についた」 「ほんとだ……オレも、つける。ここ? それとも、こっちがいい?」 「どこでも、いいよ」  ちゅっちゅって、キスを落とす音がする。  肌を舐める音もして、シーツの布ずれの音。  お互いに触りあっていたのに、だんだん、シュンのされるがままになる。  シーツをけって、枕に縋りつく。  シュンの指がおれの肌を辿る。  ゆっくりと確実あちこちに愛を刻んで、おれを夢中にさせる。 「あ……ぁん……ん、そこ……いい…いい、あシュン……シュン」 「うん……ここ、いっくん気持ちよさそう……かわいい、ね、いっくん……もっと啼いて? 声、だして……」  シュンの愛撫でおれは蕩ける。  こらえ性がなくて、先に一回放ってしまったら、それを使ってシュンがおれの中をあやし始める。  それだけでも気持ちよくてどうしようもなくなるのに、シュンはおれのあちこちにキスを落としていくから、耐えられなくなっておれはシュンの腕に噛みつく。 「ふふふ、いっくんの痕、くっきりついた」  痛いはずなのにシュンはそう言って笑って、もっと熱心におれの身体を確かめる。  うつぶせにされて、おれの中にシュンが入ってくる。  腰を持ち上げて応えていたけど、だんだん身体を支える余裕がなくなってぺったりとうつぶせになってしまう。  おれを抱え込んでぴったりとくっついて、シュンはなおもおれの中を往復する。  背中にシュンが噛みついてきて、その痛みも、愛おしく感じた。 「ああっ…あ、ん……シュン……シュン、いい……もっと……」 「あ…いっくん……すげ。あったかい……気持ちいい? オレはねえ、きもちよすぎて、ちんこ溶けそう」    ぐいぐいとおれの中を愛してくれているシュンの熱が、もっと熱く硬くなる。  腰の奥がざわついて、背中を何かが駆け上る。  いやいやと首を振ったら、強くベッドに押さえつけられた。   「郁」 「ぁ……ああ、や、」  耳元で呼ばれて、ぎゅって、内臓が動く。 「はっ……いっくん、すっげえ、いい……感じたの? 名前、呼んだだけなのに?」 「だ、だけじゃ、ない」 「郁……郁、好き……」 「シュ…ン、あ、や、やだ、だめ、それだめ……シュン、シュン……」  うつ伏せたおれにのしかかって、動きを封じて貫いているだけだ。  シュンが動いている訳じゃない。  でも感じる。  汗ばんだ肌と、荒い息づかいと、耳元で呼ばれるおれの名前。  いつもと違う、声。  枕をつかんだ手の上から、シュンの手が重ねられる。 「腰、揺れてる……」 「違……ああ、ダメ……シュン、イっちゃう……」 「いいよ。いっぱいイって。何遍でも、イって……オレのでイって」 「ダメ……変、なる……んあ、あ、ああ……シュン」  シュンの熱は熱くて。  おれの中はたくさん愛されてドロドロになって、きっと溶けてしまったんだと思う。  それくらい、夢中になった。

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