4 / 75
同居人は料理が美味いけど、俺は料理を食べるのが上手い(4)
「……何か、違う」
話は現在に戻るが、じゃがいもを噛み締めていたら細川が突然唸りだした。
一体全体何が違うというのか、盛山には分からなかった。ポトフの味が想像と違ったのだろうか。いや、半分以上食べ進めておいてそれはないだろう。
「どうした細川」
「何か違うんだよ……そうじゃねえんだよな」
「……コショウが足りないとか?」
「味付けの話じゃねえ。お前がそう言うなら今度から足すけど」
「いや、今食べてるのが好きだから足さなくていいよ」
眉間に皺を寄せていた細川が、目を丸くした。かと思えば、盛山の皿をじーっと見つめている。
細川は普段、ころころと顔色を変える奴ではない。新鮮である。
「俺の料理の褒め方、雑? 表現方法が違うってこと?」
「確かに、盛山の褒め方って表現も語彙も足りないよな。でもそういうことじゃない」
「じゃあ、何が違うんだよ。さっきから皿見つめてるけど、何か分かったのか?」
「いや……お前、綺麗に食べるよなあと思って」
「そうか? 意識したことは無いけど、残すのもったいないし」
「……そういうところ、良いよな。好きだわ」
「……そりゃ、どうも。ごちそうさまでした」
細川は無自覚に何かを期待したような目をしている。盛山はその視線を「料理をもっと詳細に褒めてほしい」という意味だと受け取ったが、違った。
盛山に好意的な評価を下しているところに、ヒントが隠されているのは分かる。
もしかして、と思う気持ちも盛山にはある。
細川の「好きだ」という言葉が、評価でも褒め言葉でもない可能性。
それは自惚れであろうな、とも盛山は思う。だから言えない。
もしかすると、細川もそう思っているのかもしれない。だとすると、盛山はかなり思わせぶりな言葉を細川にかけてしまっていることになる。
少し申し訳ない気持ちになるが、「間違っていたとき」のことを考えると踏み込むことが出来ない。
ともだちにシェアしよう!