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同居人は料理が美味いけど、俺は料理を食べるのが上手い(5)
「そうだ、言うの忘れてたんだけど」
ポトフを食べ終わった細川が、話題をすり替えるように切り出した。
「オレ、明日と明後日は泊まり込みの集中講義が入ったから帰って来れないんだわ」
「二泊三日ってことか。連休なのにご苦労様。……え、晩ご飯は?」
「自分で調達しろ。と言いたいところだけど、明日カレーを作っておいてやる。それ食べな」
細川は柔らかく微笑む。カレーなら、多めに作っておけば二日間美味しく頂くことができる。
盛山は二回ほど、細川の作るカレーを食べたことがあった。
さしもの細川もスパイスからカレーを作りはしなかったが、隠し味にすりおろしリンゴを使っているらしい。盛山の母の作るカレーとは、味も香りも違った。
「カレーってそもそも美味しいけど、細川の作るカレーは何か新鮮で好きだな。楽しみだよ」
「……もし二日目に酸っぱい臭いがしたら、食わずに捨てるんだぞ」
「分かってるよ。もったいないとか言って食べたりしないし」
「だったら良いけど。連休を返上して講義を終わらせた後に、倒れ伏したお前の世話なんてしたくないからさ」
細川はからかうように話すが、盛山だって貴重な休みを食中毒に潰されるのはまっぴらごめんだ。
細川が家に居ないとなると、盛山は連休中は一人きりということになる。
盛山にだって、バイトの予定や課題などのやるべきことはあるが、夜は家に帰ってこられるようにしている。晩ご飯を細川と食べるために。
盛山と細川は同居を始めてから、晩ご飯はできるだけ一緒に食べようと心掛けていた。付き合いなどで外食する場合は、前日までにお互いに知らせておくように決めていた。
確かに今回も、前日までには情報を共有できたと言える。
しかし、数か月前に同居を始めてから現在に至るまで、二人が二日以上顔を合わせなかったのは一回しかない。その一回も盛山が帰省した時だけで、一人で待つのは細川の方だった。今回は盛山が待つ側ということになる。
同居を始める前は盛山一人で暮らしていたのだから、不安に思うことは無いはずだ。それなのに、盛山はどこか心許なく、少し居心地が悪かった。
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