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同居人は料理が美味いけど、俺は料理を食べるのが上手い(7)
バイトから帰宅した盛山を迎えたのは、カレーの香りに違いなかった。
しかし知らない香りだ、とも盛山は思った。
細川の作るカレーは二回しか食べたことがないけれど、それでもこんなにスパイシーで深みのある香りではなかった。
細川のカレーは、もう少しフルーティーな香りが漂っているカレーだった記憶がある。
キッチンを覗くと、蓋のされた鍋の中には確かにカレーが存在していた。どうやら数時間前まで細川は家に居たらしく、鍋は温かかった。お米も炊いてくれている。盛山はすぐにでも食べてみたかったが、念のためにカレーを再加熱した。
リビングに荷物を置いていると、テーブルの上に書置きを見つけた。細川の字だ。
細川の生み出す、ミミズがのた打ち回ったような字を解読するのは、本人以外には困難であるはずだった。しかし恐ろしいことに、盛山は頑張れば解読できるようになってしまった。
『バイトから帰ってきた盛山へ。カレーを食べ終わったら素早く冷ませ。ボウルに氷水を張って、鍋を入れろ。そして冷蔵庫に入れろ』
細川は食中毒を心配しているのだろう、ということが分かった。カレーをご飯にかけ、テーブルに持っていき手を合わせる。細川はやはり隣にはいなくて、盛山は落ち着かない。
「いただきます」
慣れない香りにも戸惑いを感じつつ、これはこれで美味しそうなんだよな、と盛山は気を取り直して一口含んだ。
やはり美味しい。それは間違いなかった。しかし、カレーの奥底深くに微かな苦味を感じた。ただ、その苦みは不快なものではなく、カレーの味を引き立てている。細川が、リンゴでなく何か別の隠し味を入れたに違いなかった。
何を入れたのか、細川に聞いてみたい。食べ終わって手を合わせた後、細川にメッセージを入れてみたが、その日のうちに返事が来ることはなかった。
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