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同居人は料理が美味いけど、俺は料理を食べるのが上手い(11)
細川によると、カレーの中に入っていたのはインスタントコーヒーだったらしい。少し苦かったわけだ、と盛山は納得した。
「変わった匂いがしたけどさ、美味しかったよ。あれも好きだな」
「そりゃ良かった。綺麗に食べてくれたみたいだしな」
盛山には細川の笑みがいつもより優しく見えた。惚れた弱味かもしれない。好きだな、という気持ちが波紋のように広がる。
「そういえばお前、メッセージの返信くれなかっただろ」
「悪い、携帯見てなかった。どんな内容?」
「隠し味のことだよ」
「そんなの帰ってきてから聞けば良かっただろ」
「……寂しかったから。俺、お前のこと好きだよ」
細川の手が止まった。細川は少し悲しそうな顔をしていたので、快い返事はもらえないだろうと盛山は諦めていた。いつも料理を褒める時と同じような顔をしていてほしかった。
「……お前から言わせてごめんな」
「何それ。どういうことだよ」
「集中講義の話を前日の夜ギリギリにしたのも、カレーにいつもと違う物入れたのもさ、全部わざとだったって話だ。少しでもオレのこと考えてほしかった」
連休に他の奴との予定を詰め込んでほしくなかったし、と細川はぽつりと零す。携帯を見る時間がなかったのは本当らしかった。
「どんな料理でも美味しそうに食べてるお前が好きだから、そのおかげで料理も悪くねえなって思えたから、今の環境を壊したくなかった。せめて、盛山の気持ちを確認したいってずっと思ってたんだ。意気地なしで幻滅したか?」
「似たようなこと考えてたから幻滅なんてしてない。でもまだ納得いかないよ」
「どうしたら許してくれる?」
「埋め合わせをしてくれ」
盛山は起き上がって、細川に向けて両腕を広げる。細川は、はにかみ顔で盛山を抱きしめた。好きだ、という細川の声が盛山の耳に吹き込まれる。
細川の体は細いけれど、大きくて温かくて、安心できる香りがした。
これがシャンプーの香りなのか、細川自身の香りなのか、今の盛山には判断できない。それも含めて、これから細川の全てを知っていきたいと盛山は思った。
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