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同居人の誕生日は今日だけど、俺は何も用意してない(8)

「細川、それ違っ……」 俺はお前の食事が欲しかったのであって、お前の口の中の冷気をもらう気はない。そう細川に伝えようとしたが、もう手遅れだった。 唇同士がくっついて、その間からひんやりとした舌が口の中に入り込んできた。盛山は初めての感覚に硬直したが、頭を優しく撫でられて、力が抜けていく。細川の舌は、冷気を余すところなく盛山の口内に擦りつけていった。 「健、目瞑って」 「う……ん」 粘膜をこすられる度に、舌先に触れられる度に、盛山の胸の中からぞわぞわした震えが広がる。その震えは盛山の力を更に奪い取って、その代わりに熱を生み出した。無意識に細川の胸に縋りつくと、空いた手で盛山を抱えて支えてくれる。体の火照りが、次第に口内にも移っていった。 頭を撫でてくれていた細川の手が下りて、耳に触れる。温くなった細川の舌を舐ると、抱き寄せる力が強くなった。少し汗ばんだ匂いがする。盛山は、自分の要求を通せなかった悲しみよりも、細川と初めてのことがたくさんできている嬉しさと気持ち良さに満たされていた。ずっとこのままでも良いかもしれない。そう思ったと同時に、目的を果たした細川が唇を離した。 「……細川。俺はシチューが欲しかったんだよ。皿だけでいいって言っただろ」 「薄々そんな気はしてたけど、お前、シチューだって一言も言わなかったじゃないか。それに、オレの口の中の話をしてた時だったから、勘違いするだろ」 「……確かにそうだった、ごめん」 「謝らなくていい。オレも、何か食い違ってるのは分かってたけど、押し切ったんだから」 細川は盛山を抱き留めたまま、首筋に口付けをする。先程の会話を思い返すと、盛山は確かに何をもらってやろうとは言わなかった。主語と目的語ははっきりと口にするべきである。

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