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同居人の誕生日は今日だけど、俺は何も用意してない(11)

シチューは案の定冷めてしまったので、電子レンジで温め直して完食した。 賢太郎はケーキを心待ちにしているようで、冷蔵庫にチラチラと視線を送っている。 「ケーキ食べたい?」 「ああ。何買ってきたんだ?」 「それは開けてからのお楽しみだよ。飲み物は紅茶? コーヒー?」 「コーヒーで」 「わかった。俺、紅茶にしよ」 食後のデザートや間食の時、お茶の用意をするのは健の仕事だった。インスタントコーヒーとティーバッグをそれぞれのカップに入れ、湯を注ぐ。賢太郎のカップはブラックのままで、健のカップには砂糖を入れてテーブルに持って行った。 「今ケーキ出すから、少し待ってて」 「ありがとう」 健は一緒に包んでもらった生チョコをこっそり分けて冷蔵庫に入れなおし、ケーキの入った箱をテーブルに置く。 箱を開けると、そのように買ったのだから当然なのだけれど、ザッハトルテとシャインマスカットの生クリームケーキが可愛らしく並んでいた。 「どんなケーキが好きか分からないから適当に選んだけど、どっちが良い?」 「……チョコレート好きだからザッハトルテが良い。でも、シャインマスカットも食べてみたいんだよな」 賢太郎は何かを要求するように、じっと健を見つめている。二つとも寄越せ、という意味ではない。流石に分かっている。 「そっか。じゃあ、半分ずつ食べようか」 「ああ」 ケーキを皿に一個ずつ取り分けて、二人でつつき合いながら食べる。こうやって、二人で分け合いながら、話し合いながら、お互いのことを考えながら過ごしていきたい。この気持ちを忘れないでいたい、と健は柄にもなく思ったのだった。

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