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同居人が知らない人と喧嘩してるけど、俺は止めない
賢太郎の誕生日も終わって、少し経った頃。
健が大学の敷地内を歩いていると、誰かが騒いでいるのが聞こえた。
「何だろ、あれ。痴話喧嘩かなあ」
「痴情のもつれなんじゃないの。知らんけど」
健と同じく帰途に就こうといるのであろう女子大生が、ひそひそと噂しながら遠回りしていく。健も前方の彼女らに倣って回避しようとしたが、悲しいかな、彼の自転車は言い争いをする男女の付近に停められていた。
件の男女はどちらも高身長で、言い争っているというよりは女性が男性に追いすがっているようにも見える。男性の方は見覚えがある気がしなくもない、というか明らかに賢太郎なのだが、厄介ごとに巻き込まれたくない健は二人と目を合わせないように、刺激しないように自転車のロックを外す。
「お願い賢太郎、行くあてがないの! あなた、お姉ちゃんのこと可哀そうだって思わないわけ?!」
「実家に戻ればいいだろ。オレは友達の家に住まわせてもらってるんだから、姉さんを家に置くのは一日だとしても絶対に無理だ」
「実家は嫌! あんな家帰りたくない~!」
「姉さん、みっともないから本当にやめてくれ!」
健は聞き耳を立てつつ自転車にまたがる。賢太郎がここまで声を荒げるのも珍しいので、少し面白い気分だった。賢太郎のお姉さんが家を出ていたのも初耳だったし、あんなに騒がしいお姉さんだとも思わなかったので更に意外だった。
ともかく、早く帰宅して自宅の鍵を閉めておかなければ、と健は決心した。あの調子では、賢太郎は必ずお姉さんを連れて自宅にやってきてしまうだろう。彼には申し訳ないが、お姉さんをしっかり説得して一人で帰ってきてほしいものだ。なにせ、家にはお姉さんが寝られるようなスペースも寝具もないのだから。
あと単純に、恋人のお姉さんが同席するという状態は、精神的に厳しいものがある。
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