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同居人が知らない人と喧嘩してるけど、俺は止めない(2)

「おい、健! 無視してないで助けてくれ」 「うわ、気づかれてたか」 「あなた、賢太郎のお友達? あたし、姉の知恵美です。この子って大人しくて真面目でしょう? 門限もあったから、友達付き合いできてるか心配だったんだけど、ちゃんとお友達がいて良かった。これからもよろしくしてあげてね」 「姉さん、健の前で変なこと言わないでくれ。本当に実家に帰ってくれよ、そして不動産屋にでも行ってくれ」 「じゃあ一緒に来てよお! 賢太郎と一緒じゃないと実家になんて行く気にならないのに」 「良く言うな。オレのこと置いて家を飛び出したくせに」 「あれはお父さんとお母さんが悪いの! 思い出しただけで腹立つ!」 喜怒哀楽がはっきりしている知恵美は、賢太郎の肩を掴んで勢いよく揺らしている。それを止めつつ、一旦落ち着いて話し合った方が良いのでは、と健は提案した。通行人の視線が痛いし、知り合いが来る恐れもある。細川姉弟は納得してくれたが、ではどこで仕切りなおすのかという話で、三人はやはり健と賢太郎の自宅に向かうことになってしまった。 知恵美と賢太郎は地下鉄で、健は自転車で自宅に向かった。もともと賢太郎は徒歩で向かう予定だったが、知恵美に嘘の最寄り駅を教えてまた争いになったため、結局姉弟で一緒に向かう羽目になったのだ。 それにしても、下宿生の最寄り駅を大学から五駅先だと宣うとは、嘘を吐くのが下手だなと健は呆れた。もしかしたら、その争いも含めてコミュニケーションを取っているつもりなのかもしれない。健も、妹と下らない話をしてどつきあっていた記憶がある。

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