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同居人のお姉さんが、俺にもちょっかいを出してくる(5)

「姉さんは帰りも遅かったし、なかなか顔を合わせられなかっただろ。どうしても母さんと顔を合わせる頻度の方が多くて、嫌気が差したんだよ」 「お母さん、昔から賢太郎に当たりが強かったもんね。進路のことにも口を出して、大学にも文句ばっかりだった」 「思い出したくもない」 バッサリと切り捨てると、賢太郎は溜息を吐いた。彼は浪人もしていたし、余計に何かを言われたのかもしれない。知恵美は鬱屈が溜まっているであろう弟を気遣って、言葉を選んでいるようだ。 「……賢太郎が浪人する羽目になったのは、お父さんが行方をくらましたせいなのにね。賢太郎は受験生で、大事な時期だったのに。賢太郎が家事を押しつけられたのもお父さんが原因じゃないの」 「あの男も居なくなるなら一生居なくなってれば良かったんだ。大学も決まって目下の問題が片付いたと思ったらノコノコ戻ってきて、更に最悪になってやがった」 賢太郎は憎々しげに吐き捨てる。彼曰く、自分があんなクソみたいな家に残っていたのは知恵美が庇ったり手伝ってくれていたからで、知恵美が家を出るなら残ってやる義理もなかった、とのことだ。 そんな知恵美が突然家を出たのは、彼氏と結婚前提に同棲すると両親に話をしたときに嫌味を散々言われたことがきっかけらしい。それこそ先程、弟から言われたような内容だったらしいが、更に腹立たしいことも言われたようで、知恵美は酷く憤っていた。 「ひっどいのよ。あたしは家事なんてしたことないから無理とか、どうせすぐ別れるんだから結婚しても無意味とか。お父さんにも反対されるとは思わなかった。だって、あたし達のことなんてどうでもいいから家を出たんでしょ?」 「オレ達を金づるとしか思ってなかったんだろ。オレ、奨学金をあの男に使い込まれるところだったんだよ」 「えっ、何それは……」 知恵美は目を丸くしていたので、初耳だったのだろう。奨学金を子どもの学費以外のことで使用する親が存在するなんて――ましてそれが自分の親だったのだから困惑も人一倍だろう。賢太郎が家を出た最大の理由がこれだったのだ。

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