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同居人のお姉さんが、俺にもちょっかいを出してくる(6)

奨学金は本人名義の口座に振り込まれるものだ。賢太郎は自分の通帳を取り返して荷物をまとめ、その日のうちに家を出た。健はそんなことは一切知らずに、数日なら良いよ、と家に招き入れたのだ。結局胃袋を掴まれてずるずると滞在が長引いて、同居の約束を取り付けられた結果今に至るわけだが、あの判断は間違ってなかったことに健は安心した。 知恵美も思い返せば、父親が戻って以降、家に入れる金が少ないだの何だのと文句を言われていた記憶があったらしい。知恵美はその頃、元彼との幸せな生活への期待に思考容量を八割以上奪われていたので、父親の話を聞き流していた節があったようだが。 二人とも両親に追跡されずに放置されていることは奇跡のようにも感じるが、逆に言えばその程度の関心しかなかったのだろうと賢太郎は断じた。 健はずっと賢太郎のことを深く知りたいと思っていたが、いざ情報が開示されると、どんな言葉をかけるべきなのか全く分からなかった。今は知恵美が居るので自分が何か言葉をかける必要はないのだが、知りたいことを知ることができたとしても、自分が適切な行動を取れるかどうかは別だということを健は思い知った。 けれど、それでも知っておきたい。気持ちだけでも寄り添いたい。それは間違いなのだろうか。 健がそんなことを考えている間にも、細川姉弟は話を進めている。 「母さんもあの機に乗じて自分の思い通りに事を進めてたからな。父さんが戻ってきても何したとしても、止めてくれる様子がなかった」 「あー、仕事復帰を理由にした家事の全放棄ね……。それを賢太郎に押しつけて、お父さんが戻ってきてもそのままにして。昔は普通だったはずなのになあ」 「母さんは家事がずっと苦手だったんだと思う。本当はずっと仕事がしたかったんだろうし、専業主婦も嫌だったんだろうな。だとしても、その皺寄せが全部オレに来るのは我慢ならなかったんだよ」

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