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上手くいかなかったことは話したくない(2)

健は風呂で声を押し殺しながら、賢太郎の身体の一部が入ってくるであろう箇所を広げようとする。 賢太郎と同じ布団に入るようになってから、こうして一人で試しているけれど、二本目の指が入らない。何も入れられなかった最初からしたら大きな進歩だが、このままでは行為を完遂するのはどう考えても無理だ。 とはいえ、ここからどうやって広げたら良いのか分からない。恐怖で身体が竦んで、息が上がる。 本当に何も知らない頃は、ただ期待を募らせていた。痛みと恐怖を知ってしまった今、もうその頃には戻れない。 一人だから上手くいかないのだろうか。賢太郎と一緒にやってみたら、案外すんなり入ってしまうのだろうか。 結局どうにもならないまま、健は風呂から出た。髪を乾かしてリビングに戻ると、布団の上で賢太郎が寝転がっていた。 「結構長かったな」 「……そうだね」 曖昧な相槌を打つことしか出来なかった健は、恐る恐る布団の隅に座る。賢太郎は健の頬に手を当て、額と額をくっつけてきた。 「大丈夫か? 不安なら無理しなくて良いから」 「……大丈夫」 詰めた息を吐き出すと、思考の風通しも良くなった気がした。目の前の恋人に焦点を合わせる。賢太郎は心配そうな顔をしていたけれど、健が軽くキスしたのを合図に、二人で布団に倒れ込んだ。 自分に覆い被さってくる恋人は、恐怖のせいで知らない人に見える。顔も身体も賢太郎なのに。 震える手で背を掻き抱く。賢太郎も健を抱きしめ返してくれた。恋人の身体が熱い。……自分が冷えているのかもしれない。 「好きだ、健。大丈夫」 質量を持った賢太郎の言葉が、確かに心に届く。その言葉だけで頑張れる気がした。

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