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恋人が可愛いので、オレの我慢が利かない(7)

帰りは渋滞も少なく、スムーズに進むことが出来た。時刻は十七時を回っている。晩ご飯は外で食べることになっているが、一度ホテルにチェックインしてから場所を考えることにした。 駐車場に車を停めてフロントに向かう。ビジネスホテルなので過度な装飾は為されていないが、清潔感のある内装が二人を出迎えた。 宿泊台帳を書こうとすると、健が何食わぬ顔で割り込んでペンを取る。自分の字が汚いことくらい賢太郎は自覚しているし、住所も健が書くのがふさわしい。現在二人が住んでいるところも、元々は健一人の家だったのだから。 健の字が必要事項を埋めていくにつれ、自分も彼と同じところに住んでいるのだという実感が、今更ながらに賢太郎の中に湧いてくる。よく考えたら、健と暮らして――健と出会ってまだ一年経っていない。ほとんど毎日一緒に居て、寝食を共にしているから、もっと長い時間一緒に居ると思っていた。 感慨に浸っていると、健は既に手続きを済ませたらしく、黒いカードタイプのルームキーを受け取っていた。一枚受け取ってエレベーターに乗り、六階のボタンを押した。ツインベッドで、バスとトイレが別れている客室だ。 賢太郎は安堵した。というのも、ツインベッドとはいえ男二人で泊まって何かしら言われるのではないかとどぎまぎしていたのだ。ただ、特に女性の場合、同性の友人と旅行なんて珍しい話でもない。どんな人間であれ、一見しただけでは目の前の二人がどういう関係なのかなんて分からないのだろう。 健も賢太郎を見上げて何か言いたそうだったが、エレベーターの扉が開いたので、何事もなかったかのように歩いていった。

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