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恋人のことを深く知りたい

客室はビジネスホテルにしてはかなりゆとりがあり、快適に過ごせそうだった。白で統一されたシンプルな室内に、黒い正方形の枕が存在感を放っている。 荷物を置いて風呂を覗くと、黒くて大きなタイルが敷き詰められた浴室で、浴槽は二人で入れそうなほど広かったので安心した。洗い場も広くて、口コミ評価が高いのも頷ける。一人一万円強と、ビジネスホテルにしては値が張ったが、諸々の条件を鑑みるにかなりお値打ちだ。ちなみに朝食も付いている。 アウトレットモールの周辺にも、もちろんホテルは点在していた。しかし、安いところだと室内風呂が貧相だったり、逆に露天風呂付きの客室で一人三万円以上かかるなど、なかなか予算と条件が合致しなかった。 「おお、風呂広いね。壁も黒くてシンプルでかっこいい。いつもよりゆっくりできそう」 健はそれだけ言ってから、ベッドに腰掛けて携帯を触り始めた。晩ご飯は何処にしようかな、と呟きながら微笑んでいる。 賢太郎は浴室の扉を閉めて、健の隣に座り、肩を抱いた。健がこちらを振り向いたので、唇を奪う。 健は目を閉じて受け入れてくれた。唇が意志を持って体温を分け与えてくる。それがあまりにも嬉しくて、健を抱きすくめた後に舌で口内を蹂躙し、真っ白なベッドに倒れこんだ。 リップ音を響かせながら顔を離すと、熱い吐息が頬にかかった。健は荒い息のまま、賢太郎の両頬を手で包む。 「やっと、起きてるお前とキスできたな。ごめん」 「なんで賢太郎が謝るんだよ。俺が……避けてたせいなのに」 健に避けられていたことを明言されて、予想以上に傷付いた。けれど、そうだとしても、賢太郎にも能動的に動いて対処する余地はあったはずだ。話し合う時間やチャンスがなかったのは、偏に健だけのせいではない。

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