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恋人のことを深く知りたい(4)

そんな自分の考えを全て健にぶつけるのは簡単だ。ただ、健がそれをどれだけ受け取ることができるのかは、賢太郎にはコントロールできない。健の考えを無理矢理変えたいわけではない。ただ、賢太郎の気持ちを知って、安心して欲しい。 涙を溢しはじめた健を見て、何も思わないわけはなかった。今日一緒に過ごして実感したが、健は間違いなく賢太郎のことを好きでいてくれている。そして、賢太郎も健のことが好きだ。それだけは否定してほしくなかった。 「なあ。健は、オレのこと好きか? 資格とか自信とか関係なく、素直に答えてほしい」 「……うん。好きだよ」 「それが聞けて良かった。オレもお前が好きだ。恋人にとって必要なものなんて、それで十分だと思う。痛いことが耐えられなくても良い。オレのことを好きでいてくれれば良いんだ。ずっとオレのこと、好きでい続けてほしい」 濡れた目尻に口づけて慰撫すると、健の腕が遠慮がちに賢太郎の背に絡まった。健は照れ臭そうに目線を合わせてくる。白いベッドに横たわった恋人は、先程より柔らかい表情になっていた。 「お前から、そこまで情熱的な言葉を聞くことになるなんて思わなかった。賢太郎も、俺のことを好きでい続けてくれるのか?」 「当然だろ」 「恋人だからできること、全部はできないかもしれないよ、俺とは」 「それでも良い。今できなくても、いつかできるようになるかもしれないし。もし仮にずっとできなかったとしても、お前のことを嫌いにはならない。二人で触れ合えるような、他のことをすればいい」 「……今はそう言ってくれてるけど、いつか賢太郎が嫌になっちゃうんじゃないかって、ずっと不安だった」 健は寂しそうに目を伏せた。賢太郎の言ったことを口先だけの嘘だと思っている訳ではなさそうだ。健は、存在するかもわからない、遠い未来のことを危惧しているのだろう。肉体的に繋がれないからと理由を付けて健に別れを告げるような、想像上の未来の賢太郎のことを考えている。

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