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恋人のことを深く知りたい(5)

「そんな悪い想像の中のオレなんて信じないでほしいな。そいつ、今のところ架空の存在だろ」 「……確かに」 「いつかはそうなるかもしれないって不安に思ってるなら、お前に出来る範囲でいいから、今のオレのことを大切にしてくれよ。今日まで結構、傷付いたんだから」 「う、ごめん。そうだよな。目の前の賢太郎のことを一番に考えなきゃいけなかった」 健は、拗ねる賢太郎を宥めるように身体を引き寄せる。二人を隔てる空間がなくなって、心臓の鼓動が重なって、息が混じり合う。頭を撫でると、健は息を漏らしながら唇を離した。蕩けきった、切ない瞳をしている。 「あんなに、お前と顔を合わせるのが怖かったのにな。今はすごく、あの時間が勿体なかったって思える。もっと、一緒に居られたはずなのに……」 「今から埋め合わせしよう。今日はまだ時間がある。明日もずっと一緒だろ?」 「……うん。車の中でできなかった分、たくさん触ってよ」 健は、悪戯っぽく挑発するように微笑む。初めて見る表情に、賢太郎は胸が高鳴った。 お言葉に甘えて、裾から入れた手を腹に乗せる。健は擽ったそうに笑いながら受け入れてくれたが、手が上に行くにつれて渋い顔になっていった。 「どうした? やっぱり怖い?」 「大丈夫。……シャワーを先に浴びたい」 「オレは気にしないけど」 「俺が気になるんだよ。お前だって、初めてキスする前にめちゃめちゃ歯磨きしてたじゃん」 「……じゃあ、二人で浴室に入ればいい」 片時も離れたくなくて、何とか一緒にいられる方法を提案する。 健は視線を彷徨わせていたが、微動だにしない賢太郎を見て観念したように頷いた。

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