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淡い茶髪は日の光を受けるとまるで金色のように輝いて、彼女自身が光を纏っているように見えた。
白い肌に、宝石を埋め込んだように煌めく琥珀の瞳。花園で微笑む彼女は絵姿にも表し残せない美しさ。
歴代随一の美姫と謳われる春麗に、他國からの求婚状は後を絶たない。
せめて一目だけでも、と城を訪れる余所者も減るどころか増える一方。今日だってどこか遠い西の国から使いが来ていた。きっと門前払いを喰らっただろう。
お国柄か、黑花の国はどこか排他的で余所者をあまり歓迎しない。近隣諸国ならまだしも、場所も国柄も知らぬ西の国からの使いだなんて歓迎するわけがなかった。
心優しく、民との触れ合いを大切にする帝を筆頭に、王族は国の人たちから愛され好かれている。春麗も例外ではない。
街の市場を歩けばいつの間にか両腕に納まりきらない貰い物で埋もれかけるし、柔らかい花の微笑が何よりも国民たちは大好きだった。美しく優しい自慢の姫君を奪おうとする余所者なんて大嫌いだ。
山並みに構える黒花の國は水脈に恵まれ、四季折々の特産物で食べ物に困ることもなく、平穏で平和な国だ。
大きな戦争もなく、恵まれた土地でありながら攻められたことがないのは歴代の帝が素晴らしい賢王ばかりであったからというのもあるが、武術や戦術にも長けた國であったことが幸いした。
若き天才剣士――雪蘭は天武の才を持って生まれた。頑張って学ばなくとも、なんとなく、で全てが完璧にできた。それは勉学だけでなく、戦術だったり、剣舞であったり。全てにおいてその才能を発揮した。まさに天才と呼ぶにふさわしい。
十四の成人の儀と共に入隊し、十八となった現在、王族直属の親衛隊隊員だ。劉師は「あとは経験を積むしかない」と仰られたが、その機会はなかなかやってこない。やってこないのが、一番だ。
「雪蘭?」
姫が呼ぶ。
「どうかしたの?」
眉根を寄せ、その微笑みを曇らせて訪ねてくる。
「……なんでもないよ。ただ、一雨来そうだから、早めに王宮へ戻ろう」
「……そう、ね。ずぶ濡れじゃあまた師に怒られちゃう」
苦い顔をして肩を竦めた春麗に苦笑した。
良き師なのだが、如何せん怒鳴られることの多い春麗は苦手意識を抱いていた。かく言う雪蘭も苦手意識の方が多かったりする。
濁してくれたことに、ほっと安堵した。
いつもは考えないようなことに思考が沈んで、せっかくのお茶会に意識が集中しない。なんだかざわざわと胸の内が騒いで仕方ない。茶器の水面に映った顔は酷く情けなかった。
ぽつ、と雫が垂れる。ぽつ、ぽつ、とそれは続いた。
空を見上げた春麗が「雨来るわ」と呟いた。
「酷くなる前に戻ろう。先に戻ってくれ」
貴方は? と問うて来る視線に「軽く片付けをしてから戻る。劉師に怒られたくないだろ」そう言えば姫は戻らざるを得ないのを知っている。劉師の怒鳴り声は骨に響くから、できれば怒られたくないのは二人とも同じだ。
春麗が戻らずに片づけをすれば二人ともずぶ濡れで怒鳴られるのは確定。
春麗だけ戻り、雪蘭がさっさと片づけてしまえば濡れるのは雪蘭だけで済み、ちょっぴり叱られるだけ。それがわかっているから、姫は戻るしかない。
花園から屋根のある場所までは走れば本降りになる前に着くことができる。この時間は花園でお茶をしていると知っている女給が布でも用意して待っているに違いない。
「ほら、行って」と急かせばこちらを気にしつつも駆けていき、すぐに木々や花々に遮られて春麗の姿は見えなくなる。
手早く茶器をまとめて、布で包む。頬を濡らす雨粒はだんだんと強くなり、袖は水気を吸って重い。
錆びなければいいのだけれど、と愛刀の心配をしながら自然と速足になった。手入れを怠れば鉄はすぐに錆びてしまう。劉師の教えだ。一日と欠かさず、愛刀の手入れを怠ったことはない。
遠くで雷が鳴った。酷い、嵐になりそうだ。
――今思えば、近づく惨劇に対する虫の知らせだったのだろう。
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