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不穏にざわめく雨降りの街中を全速力で駆け抜ける。時折呼び止められるが、立ち止まっている暇はない。
「衛兵ッ!!」
ザッと土を踏みしめ立ち止まった。泥が足元に跳ねるが気にしていられない。
門番たるふたりの衛兵は雪蘭の姿を見ると緊張に張り詰めていた顔をホッと安堵の表情で緩めた。支給された剣に手を添えて、駆け足で衛兵がやって来る。
「状況は?」
「約一里先で進行は止まっております。白い軍旗をいくつも掲げ、先頭には顔まで隠した白い甲冑の恐らく男が白い騎馬に乗ってこちらを見据えております。つい先程、早馬がこちらへ向かってくるのを確認いたしました」
「……恐らく、何かの要望だろう。私が相手をする。敵の数は」
「……およそ、二百」
目を見開いた。何かの間違いじゃ、と問うが衛兵は首を横に振る
三倍だ。騎士団のほぼ三倍の数。いくら武術に長けた國であろうと女子供を思う矢面に立たせる訳にもいかない。戦える一般市民を集めたとしても二倍。
サァっと血が下がる感覚に顔が蒼くなる。
「……急げ」
「雪蘭様?」
「帝へ急げ! 伝令だ! 奴らは確実に殺戮を引き起こす!」
「ッ……はっ!」
深く、礼をした衛兵は泥水を飛び散らしながら駆けていく。
厳しい顔つきで門の外を見据え、もうひとりの衛兵に声をかける。ひゃい、なんて間抜けな返事に気が抜けそうになる。
「……明陽 」
「うぅ……ご、ごめんなさい」
「ごめんなさいじゃなくて、申し訳ありません」
「もうしわけありません」
しょぼん、と眉を下げてたどたどしい口調で頭を下げた歳若い衛兵は目の良さと弓の腕を買われて入隊した、まだ少年と呼ぶに相応しいあどけなさがある。まだ、まだ十五歳だ。
頬にそばかすを浮かべ、帝姫たちを見ると顔を真っ赤にしてはにかんだように笑うのを知っている。
「……明陽、城門の中で待機していろ」
「え、しかし、ッ雪蘭様ひとりでなんて」
「莫迦。私を見縊るな。そういうのは私より強くなってから言え」
「ご、……もうしわけありません」
言葉遣いも辿々しい、まだまだ未熟で未来ある少年を死なせたくない。
「逃げろと言ってるんじゃない。重要な役割だ。私が合図をしたら門を閉じるんだ。敵が攻め入ってくるのに門を開けっ放しにする莫迦がどこにいる? お前の目は本物だ」
「雪蘭様……わ、わかりました! お任せ下さい!」
瞳に強い光を宿した明陽は、力強く頷き城門の中に設置されている閉門用の機械のところまで駆けていく。
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