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第5話 偶然

町に到着して直ぐに私は昼食も摂らず教会本部へ向った。 本部に村の出生死亡届の書類を提出すると、直ぐに教会の中に通され、神への祈りを捧げ一年間の懺悔をした。 それから町に出て、カフェで遅い昼食摂った。 空腹を実感したのは、食べ物を口に含んだときだった。 何故私が空腹を感じなかったのか、それはセドリックに会って何を話すか考えていたからだろう。 セドの姉の死を話し、ピアノの演奏が出来なくなった彼を元気づけよう、そんなことを考えていた。 けれど、セドをどうやって元気づけようというのだ? 大好きなピアノの演奏が出来なくなっている彼は今、ピアノが好きな私に会うのは辛いのではないか。 そんなことにも気付かなかった私は、やっと冷静になれた。 セドに会って、私はどんな言葉を掛けたら良いのかまるで考えて居なかったのだ。 「セド!!」 隣のテーブルの青年が片手で入口に向かって手を上げた。 『セド』か。 私が気にしている少年と愛称が同じなのは、神の悪戯だろう。 そう思いながら、私は席を立とうとしたその時。 「……神父様?」 私を見て『セド』と呼ばれた長身の青年は驚いた表情をしていた。 その『セド』は、村長の息子美少年セドリックの面影を残した相手だった。 そう、私の知っているセドリックだったのだ。 「やぁ……、セドリック。偶然ですね、元気にしていましたか?」 本当に偶然はあるもので、私は内心焦っていた。 何を話したらいいのか、何をどうしたらいいのか。 「どうして。神父様がこんなところに……」 「教会本部の用事です。春に町の教会に赴くのは神父の仕事ですから」 何を話したら良いのか分からない状態に陥っていても、きっと冷静に見えるのだろう。 目の前のセドリックは、茫然としていた。 「セドの知り合いか?」 セドリックに手を上げていた青年は、私と彼の顔を交互に見てそう言うと、テーブルをこちら側にくっつけた。 「神父にまで手を出すなんて。やっぱりセドは、えげつないプレイが好きだよな」 「……プレイ?」 すると我に返ったセドは、私の片手を掴み引いた。 「この人とは、そんな関係じゃない」 セドリックの表情は険しかった。 「神父様はここにいていい人じゃない。帰ってください」 何かに焦っているようなセドリックは、私の耳許で 『明日の朝、町の教会で待ってます』と呟くと、このカフェを出ていった。 「セド、この神父置いてっていいのかよ」 そう言いながら、セドリックと待ち合わせていた青年が後を追っていった。 会って話など出来るのだろうか、そう考えていたけれど、私は偶然に村長の息子セドリックと再会した。 「……」 取り残された私は、また教会に戻ることにした。 きっとまた明日の朝、教会で会える。 会うことが出来たら、今日のことを聞いてみよう。 しかし……『プレイ』とは一体何の話なのだろうか?

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