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第6話 町の教会にて

一晩経ち、再度セドリックと会う為に午前6時に私は町の教会に来ていた。 身廊を歩くと神聖な空気に包まれ、心が洗われるように感じた。 そして側廊の席に座りセドリック……セドを待つことにした。 何を話したら良いだろう、何から話したら良いだろうか。 セドの怪我をした手の話をしたら、心優しい彼は辛い思いをするだろう。 きっと亡くなったセドの姉の話を聞くのも辛いことだろう。 私は目を瞑り、手を重ね指を折った。 神よ、私は彼に一番最初に何を伝えるべきなのでしょうか。 「神父様、こんな…早い時間から来てくださるとは思いませんでした」 私は目を開くと、そこに昨日のままのセドがいた。 「……セド、大きくなりましたね」 私は手を下ろし、セドに向かい合った。 「姉さんの告別式に帰ってこなかったから、俺の様子を見に来たんですか?」 村にいたときの彼の一人称は『僕』だったはず。 そして声変わりした聞き慣れないセドの声色。 私よりも高い背、大人びた顔に、私は村長の息子セドに五年の歳月が経ったことを思い知っていた。 「セドが村に帰らなかった、それには何らかの理由があったからだと思っています。……それに関して説教をするつもりはないです」 「偶然だった、ということですか」 「君に会いに行くつもりでもあったから、偶然再会できたことを神に感謝したいとも思っています」 セドは側廊の私の席の隣に着くと、こう切り出した。 「……俺が何で村に帰らないか、理由は聞かないんですか?」 「何があったのかは、落ち着いたら話してくれると思っています。……無理に辛い思いをさせるつもりも私にはないよ」 セドの隣の席に着いて、私は十字を右手で書き指を折って言った。 目を瞑り祈りを捧げていると、隣から私の膝に片手を置く感触があって、私は目を開いた。 「俺は村には帰れないんです」 「君の居場所は村にもある。いつでも帰ってくるといい」 「俺は村に帰っていいんですか?」 セドは少し嬉しそうな声を発していた。 「勿論。君の帰りを待つ家族がいることを忘れてはいけない」 「……神父様も俺を受け入れてくれますか?」 「ああ。私の中に君の居場所はあるから、安心して帰ってくるといい」 「好きです、……神父様が好きです」 「私も君が好きだよ」 そう私が言うと、セドの右手が私の左手を強く引いて……。 「……本当に俺が好きですか?」 「勿論」 「やった……、聖職者の貴方が、俺の愛を受け入れてくれるとは思っていませんでした」 ……は?! そのままセドの顔が近付いてくると思ったら、セドの唇に私の唇が触れていた。 「……」 「っセド、なにをするんですか」 「俺、村に帰るよ」 私に口付けをしてきたセドは、吹っ切れたような勝ち誇ったような笑顔で見下ろしてきた。 「待ってくれ、セドリック。……君が村に帰ってこなかった理由は、これか?!」 「そうです。でも解決しそうだから、村に帰ることにします」 「きっき君の居場所は、私の中にはないっ!!」 私は彼が村に帰ってこなかった理由を察した。 これは鈍感な私でも分かる!! セドリックは同性愛者だから、村には帰らなかったのだ。 そして、その想いを受ける者は私なのだろう。 セドリックがピアノを弾けなくなっても帰ってこなかったのは、私から距離を置くためだったのだ。 私はセドを、……避けきれるだろうか。 神よ、私へのこの試練は納得出来ないです!!

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