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第7話 五年後の美少年
そんなこんなで、セドリックは村に帰ってきた。
「あんな頑なに村に帰るのを拒んでいたのに、こうして帰って来てくれるとは。説得してくださった神父様には感謝してます」
セドは私が町を出る日に一緒に帰って来た。
荷物はナップザック一つだった。
彼は町で生活していたものは全て捨てて、村に帰って来た。
「ですが村に帰って来た理由を話してくれないんです。……あんなに素直で良い息子だったのに、五年で別人になってしまって」
村長は教会にそんなことを相談に来た。
セドが村に帰って来た理由を知っている私は、なんとも言えない雰囲気になった。
まさか『聖職者(私)に恋愛感情を抱いていたため、村に帰ってくるのを拒んだいた』なんて、とんでもない理由を知ってるからこそ、話せなかった。
取り敢えずここは無難な言葉で相談を流すしかないだろう。
「セドリックにも何か理由があったのでしょう。こうして帰って来てくれたのですから、父親として喜んで迎えてあげればいいことです」
私がそう言うと、村長は頷いてくれた。
「そうですね、神父様。村に帰って来てくれたことを素直に喜んでいれば、昔のようにまた素直な息子に戻ってくれると信じて接します。ありがとうございます、神父様」
そして村長は村の仕事に戻っていった。
「……私としては、これ以上素直になってほしくはないよ」
今セドリックは教会の私の部屋にいるのだ。
村に帰って、直ぐ様私の部屋に入り浸っている。
「迷える子羊に、素直になってほしくないってどういうことですか」
セドは気配もなく、自由気ままに私の思いを無視してくれた。
「私の仕事の邪魔をしないでくれないか」
「俺の居場所、アルにもあるって言ってくれたのに」
彼は私に告白をしてから、自分の素を見せていた。
私を名前、しかも愛称で呼び、話し方も崩してきた。
「アル、ピアノ弾いてよ」
そうねだる彼の左手の甲には痛々しい傷がある。
もうピアノが弾けないセドは、私にピアノを弾いてほしいと言う。
私は彼がピアノを弾いてと言われると、拒めなかった。
セドは私がピアノを弾くと、目を閉じて聴いた。
変わってしまったセドの、昔と変わらないところは、ここしか私には見付からなかった。
「アルのピアノは綺麗だね」
そう呟くセドリックの表情は満足そうだった。
その彼の顔は大人の男の顔だった。
もう、あの儚げな美少年はここにはいない。
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