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第14話 魅了する音色
セドのいなくなった村は、私にとって淋しいものだった。
彼が村に帰らなかった日々に戻っただけなのに、私の回りに平穏が戻った。
いや、平穏というよりも寂しさが残っていた。
私は彼から頼られないもの足りない日々を過ごしていた。
妖精ちゃんは側にいてくれる気配はあるけれど、さほど村の仕事も忙しいわけではないので呼ぶこともなかった。
『アルフレッド、たまにはあたしのこと呼んでほしいんだけど』
呼んでもないのに妖精ちゃんは私の前に現れるようになっていたが、妖精なので村人には見えないらしい彼女は、暇な時間本を読むようになっていた。
「妖精ちゃん、君は何故私の使い魔になったんだい」
ずっと聞こうと思っていたことを私は彼女に尋ねた。
『あたしずっとアルフレッドを水鏡で見てたの。最初に見付けたとき、あんたがまだ小さくて……家が燃えていたわ』
そんな昔から私を知ってたのか。
「そんなときから私を見てたのかい」
『重症になりながら、そんな辛い思いをしたのに、運命を呪うどころか運命を決めた神様を愛するようになってたあんたが変なヤツだと思って、ずっと見ちゃってた。……あたしもセドリックと同じ、アルフレッドのピアノが好きだったし。あんたはセドリックの思いにも気付かないで、能天気だなって。人間が読書を楽しむみたいに、あたしはアルフレッドを見る楽しみが出来た』
小さな妖精ちゃんは、読んでいた本を閉じて、私を見ていた。
『そんなときに、セドリックのお姉さんが死んだのよ。……あんたは町で暮らすセドリックのこと心配するようになった』
そういえば、セドはお墓参りに行っただろうか。
『あたしは何かを司るような妖精じゃなかったから、水鏡であんたの気持ちを読むくらいしか出来なかった。それであたしアルフレッドのために働いてみたくて、神様にアルフレッドの使い魔になって働きたいってお願いしたの』
「何故私の使い魔になんて……」
私に飛び出て才能があるわけでもないのに、妖精を魅了するものもない。
それなのに彼女は、私の使い魔になるなんて。
『あんたお人好しだから、人生損するだろうなって心配になった。だからあたしはアルフレッドの人生にかかわりたくなったの』
妖精ちゃんは私の手をとって握った。
その手は暖かいものだった。
「妖精ちゃん……」
『それにあたし、セドリックよりずっと前からアルフレッドを知ってるのに、直接ピアノを弾いてもらったことないし。聞いてみたかった』
妖精を魅了するピアノの演奏技術を私が持っているとも思えなかったけれど、自分が好きなことを誉められるのはとても嬉しいことだった。
「私のピアノ、聴きたいかい?」
『ええ!!……でもあたしは何もお返しは出来ないけど』
「そんなことはないよ。私の人生にかかわってくれる、大切な人だ」
妖精ちゃんのために、私はピアノを弾いた。
彼女はとても楽しそうに私のピアノを聞いてくれた。
『あたしも、セドリックと同じ。アルフレッドのピアノが好きよ。だから……、アイツはこの村に帰ってくる』
童女くらいの小さな妖精ちゃんは、私のピアノが好きだと言ってくれる。
そしてセドリックも私のピアノが好きだと言ってくれた。
私もピアノが好きだからこそ、私のピアノが好きな二人(?)は特別な存在になっていた。
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