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第26話 屁理屈
気付いたら私はベッドに眠っていた。
夕飯の支度をしなくては。
その前に教会の戸締まりも、そう思ってベッドのあるロフトから下りると、ピアノの椅子にセドリックが座っていた。
「……右手は大丈夫なんです。とっさに左手が庇ったんだろうなって思いました」
セドと視線が合った。
真っ直ぐな瞳で私を見ているが、救いを求める目ではなかった。
「君自身が無事で良かった」
「ボロボロでした。町でアルに会うまでは」
「ボロボロなのに、私をボロボロにして楽しかったかい」
そう私が言うと、セドは苦笑いでこう言った。
「正直に事情を話してしまったら、貴方が俺のために泣いちゃうんじゃないかって思って。それなら俺のせいで泣いてくれたほうがいいなと……」
「それは屁理屈だ」
私は真面目な気持ちでこう答えた。
「君のために泣くんじゃない。私は君の背負うみらいに泣きたい。セド、君は音楽の神に愛されていた」
町の学校に行く前の彼は確かに音楽の神に誰しもが彼は愛されていたと思うだろう。
「でも僕はこの怪我をして良かったと思ってます」
「それはどうしてだい」
あんなに楽しそうにピアノを弾いていたセドリックが。
あんなに嬉しそうにピアノを引いていたセドリックが。
怪我を負って良かったと言っている。
それはどうしてなのか、私は知りたかった。
「俺はピアノが好きなんじゃなくて、ピアノを弾いているアルフレッドが好きだから。貴方の気を引きたくて俺はピアノをはじめたんです」
いつだかそれを聞いた気がするが、やはり私はそれを認めたくなかった。
「……それで納得がいくと思わないでくれよ、セドリック」
私は奥歯を思い切り噛んだ。
その理由、私は悔しかったのだ。
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