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第32話 偶然
行為が終わったら既に夜になってしまっていた。
今日教会に訪ねて来てくれた人達は留守だと思って帰ってしまっただろう。
それでも明日薬を取りに来る人達もいるので、私は風呂に入ってから教会のデスクで薬を作ることにした。
「アルは真面目ですね。薬が一回分くらいなくても死にはしないだろうと思いますけど」
なんてことをいうのだろうか。
「セドリック、もう家に帰りなさい」
「アルのピアノの教官ってダニエルって名前だったよね」
「え、ええ。よく知ってますね」
急に何を話し出すのだろう、私の過去にセドリックに何の関係があるというのか。
「俺もダニエル教官にピアノを教わってました。貴方の火災事故は12歳、僕のピアノ事故も12歳。教官が同じって少し出来すぎてると思いませんか?」
何を言い出すのかと思えば、突拍子もないことだった。
「私の場合はピアノの才能は無かったし、事故と言っても火元か家族なんだ。なにもおかしい事はないよ」
「僕の事故の場合は男爵夫人が口を出したと言ってましたが、事故のことは本当はなにも関与してなかったんです」
セドはパイプオルガンの椅子に座り、長い足を組む姿はまるで絵画のようだ。
こんなに魅力的な少年なら、私なんて相手にしなくても数多のごとくモテるだろう。
「教官の周り関係者や元教え子達は、みんな金髪碧眼に近い容姿をしています。そして何処かしら怪我の跡があるんです。……偶然にしては出来すぎていると思いませんか?」
セドは教官が事故を起こしているとでも言いたいのだろうか。
それは有り得ないような話だった。
「数日後くらいまでに町から人が訪ねてくると思います。アルには会ってほしくないですが、仕事上そういう訳にもいかなくなっちゃうと思いますが、くれぐれも用心してください」
そう言い残すとセドリックは去っていった。
確かに私もセドも12歳で事故に合っているが、これは偶然だと思っていた。
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