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第33話 殻
ダニエル教官はとても優しい人だった。
私が初めての代の生徒になった。
教官の指導の元、私はピアノを勉強した。
教官のピアノ演奏は、優しくて時には強く荒々しい雰囲気で、感情が演奏に出るとても繊細な方だった。
そのダニエル教官に私はピアノの才能はないだろうと言われてしまったのだ。
『殻を破らなければ、君の演奏家としての才能は開花しないだろう』
そう言われて私は指が毎日痙攣するくらい必死になって練習した。
教官の言っていた『殻』を破るために必死になって、教官に褒めてもらいたくて勉強して。
才能が開花するまでは教室にも行かず課題曲の練習に励んでいた。
その時に私の家は火事にあった。
その火事で残ったものはこの右肩から背中までわたる火傷だった。
私はダニエル教官に合わせる顔が無く、孤児となった私はとぼとぼと教会に足を向けた。
その時に私はこの道に進もうと決心した。
孤児院へ私宛にダニエル教官から復帰するように何通か手紙が届いたが、私の決心は硬かったらしく揺るぐことはなかった。
それでも時々私は思うのだ
もし、あの火事がなかったら私の人生はどうなっていただろう。
火事にあってなければ、私の人生はもっと納得するものだっただろうか。
それでも過去は変えることは出来ないし、私は今の自分が結構好きだった。
最近の境遇以外は納得して生きていた。
「……それにしても」
セドリックもダニエル教官の生徒だったとは、世の中は広いようで狭いものだ。
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