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第36話 誘いを断った生徒
駐在所から教会へ帰ってきたとき、教会の中から声がするのを聞いた。
一人はセドリックの声だった。
「俺は教官のもとに帰る日は来ないって言っているんです。ピアノが弾けなくなった教え子を側において何が楽しいんですか」
「音楽はピアノだけではない。僕のもとに帰って来い、セドリック」
その話し声の主は私も知っていた。
「神の前で喧嘩などいい加減にしてもらえますか」
私は二人の仲裁に入った。
「口を挟まないでくれないか!!これは僕とセドリックの問題……」
ダニエル教官は最初は捲し立てるように話をはじめたが、徐々に声が小さくなっていた。
「まさか……、アルフレッドかい?」
過去と今の私がダニエル教官の中で一致したのだろう。
私は真面目な面持ちで挨拶をした。
「お久しぶりです、ダニエル教官。いえダニエルさん。私はこの教会で神父をしているアルフレッドです」
十字をきり会釈をした。
「何ということだ。この村には私の誘いを断った生徒が二人も居たなんて」
ダニエル教官は頭を片手で覆った。
「喧嘩は神の前ではしないで、教会の外でお願い致します」
「俺は勉強していただけです!!」
「喧嘩ではない、話し合いだ!!」
この二人を見て私は思った。
気が合わないだろうな、と。
それでもセドを側に置いておきたいと思うダニエル教官の思いが私には分からなかった。
「とにかくセドの教官も、二人では教会を訪れないようにお願いします。神の前は静粛です」
そう言って私は二人を業界から追い出した。
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