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第38話 故意の事故
その日妖精ちゃんが帰ってきたのは真夜中だった。
『ダニエルは相当セドリックが気に入ってるみたいだったわ。才能をここに埋めておくなんて勿体ないって』
確かに音楽家の才能は演奏家としてのものではないだろう。
それならば尚更ダニエル教官が故意に鍵盤の蓋を落とすような事故を引き起こすようなことはしないだろう。
「もしかしたら教官はセドの事故は自分のせいだと思ってるのかも?」
私がそう言うと、妖精ちゃんは『はぁー』と溜め息を吐いた。
『アルフレッド、まだ分かってないの?』
「なにがだい?」
『セドリックの事故はダニエルが起こした故意の事故よ。ダニエルのそばにいる生徒は金髪碧眼で儚げな美少年美青年、どこかしらに傷跡があるわ。何らかの事故を装って側にいさせる理由を作ってるのよ』
それはセドも言っていたことだった。
「だけども偶然じゃないのかな」
証拠は何もないことだし、単なるくうぜんじゃないだろうか。
『もしかしたらアルフレッド、あんたの家の火事もダニエルの放火ってこともあるのかもしれないわ』
「まさか。ダニエル教官が放火の犯人の訳がないだろう。あれは父様のタバコの消し忘れが出火原因なんだから」
でも、もしかしたら。
殻を破るために家に籠もっていた私を外に出す目的で放火したのならば。
『誘いを断った生徒』と言ったことも納得がいく。
とりあえず、今は落ち着こう。
私はグランドピアノの鍵盤の蓋を開けて、落ち着けるように優しい曲を演奏し始めた。
少し調律があっていないピアノの音だが、私の気分は少しだけ落ち着いた。
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