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第6話 見た目は好きだけど
歩く俺の隣を、速度を合わせてついてくる男は、濃紺のパーカーにキャメル色のカーゴパンツ姿。
175センチを越す俺は、小さい方じゃないが、隣の男の方が少し高い。
多分、180センチを越している。
それに、軽く袖を上げているところから見える腕は、男らしくがっしりとしている。
全体的に骨太の印象だ。
俺は、体力をつけようと筋肉をつけてみたが、元から線の細い身体は華奢な見た目のままだ。
街灯の下を通る度に浮かび上がるその顔を、ちらちらと見てしまう。
キリッと上がった太い眉は気が強そうに見えるのに、くっきりとした二重は目尻にかけて少しだけ下がり懐っこい印象を与える。
ショートの黒髪は、頭頂部から前へと流されふんわりとまとまっていた。
……こいつの見た目、好きだな。
こいつの目的は、セックスじゃない。
こいつに付き合ったところで、俺の欲求は解消されない。
わかっているクセに、モデルを引き受けた。
……こいつの容姿が、俺の心を擽 ったからだ。
「ここでいいだろ?」
建物の側まで歩き、親指で指し示した。
ホテルの外装は、その辺にあるようなド派手なものじゃない。
煉瓦造りの高い塀に囲まれており、ホテル自体も茶色一色。
電光掲示板もなく、出入口の脇に小さな看板が下げられているだけ。
その看板も、ホテルの名前と休憩、宿泊の値段が申し訳程度に書かれている質素なもの。
一見では、ラブホテルとは気づけないかもしれない。
現状を理解しようと、看板と建物を数度往復する男の視線。
ここは嫌だと言われても、面倒だ。
俺は、返答を待たずに男の手首を掴み、中へと足を進めた。
空いている部屋の様相が明るく映し出されて、その中から使用する場所のボタンを押す…なんて、ハイテクな造りじゃない。
受付は、お互いの顔が見えない小窓だ。
「宿泊で」
声を放ち、宿泊料金を差し出せば、部屋番号のついたキーが、すっと返ってくる。
空いている手でキーを掴み、そのまま男を連行するように階段を上がった。
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